戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない ★★★☆


戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない
高遠菜穂子著
講談社
★★★☆

イラク人質事件の当事者による事件の顛末記、そして市民レベルの目で見た戦後イラクの状況。
前半で、ヨルダンからイラクに入国し拘束されて、やがて解放に至るまでの顛末が、詳細に描かれている。このあたりはスリリングで、映画『ミッドナイト・エクスプレス』を彷彿とさせる(この映画は多分に差別的であまり好きではないが)。拘束した側のイラク人とのやりとりも、緊張感はあるが、なかなか面白く、どんどん読み進めることができる。人質になった著者らは、事件当時から心ない誹謗中傷を受け続けているが、その多くがいかにトンチンカンで的はずれか、この本を読めば察しが付くだろう。
後半は、事件以前の著者とイラクとの関わりを時系列で書いている。つまり、後半から読み始めて最初のページに飛べば、時間的につながるようになっている。事件自体が大変話題になったので、事件の顛末を最初に持ってくるという、こういう構成は納得ができる。前半で著者の活動に関心がわけば、後半を読み進めれば良いということになる。後半は、著者がホームページで報告していた内容を集めたものが主で、イラク国内の混乱ぶりがよく伝わってくる。著者を貫いているのは「愛」というキーワードだという。日本で「愛」などと口走れば気恥ずかしいが、戦場となっているイラクでは大きな説得力を伴う。著者の真摯さがよく伝わってくる好著である。

投稿日: 火曜日 - 12 月 20, 2005 05:21 午後          


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