たのしい不便 ★★★


たのしい不便 大量消費社会を超える
福岡賢正著
南方新社
★★★

大量消費社会へのアンチテーゼとして、多少の不便を生活に取り込むということを実践したある記者による新聞連載をまとめたもの。
たとえば、「自転車で通勤する」、「自動販売機で買わない」、「季節はずれの野菜を食べない」、「電気あんかを湯たんぽにする」などである。試みは面白いし、こういう生活は全面的に賛成だが、何かしら反感を感じてしまう本である。そもそも、これで紹介されている不便の実践例は、私も大体実践しているのであまり目新しくないし(ただしエコロジーの観点からやっているのではなく、もったいないからとか(ケチ?)そっちの方が自然とかその程度のこと。要するに好みの問題である)。それに、やたら理屈ばかり並べられているのも、鬱陶しいと思った理由かも知れない。ちょっと机上の空論を思わせる(実際にはきちんと実践しているので空論とは言えないのだが)。
前半は、新聞連載をまとめたルポで、後半はいろいろな人との対談である。対談は、相手によって面白いものもあるが、そうでないものもある。基本的に、実践家との対談は面白いが、学者をはじめとする理論家との対談は退屈……というか少しうざったい。
通勤を電車から自転車にシフトした著者だが、その後、18歳の少年が運転するバイクに追突され、死線をさまよったらしい(後遺症も残ったという)。結果的に、現在の交通行政(環境行政も含む)の問題を鋭く描き出すことになった(実はこの本で一番迫力があったのはこの箇所 --「あとがき」-- だ。非常に気の毒ではあるが)。自転車によく乗る自分にとってみても人ごととは思えない。気をつけねばと自制するきっかけになった。

投稿日: 金曜日 - 12 月 30, 2005 11:16 午前          


©