親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと ★★★☆


親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと
山田太一著
新潮文庫
★★★☆

シナリオ作家、山田太一の聞き語りを書き起こした育児論。
聞き語りといっても、テープ起こしした原稿に著者自ら手を入れるという念の入れようで、「聞き語りだから安直だ」とばかりは言えないようだ。むしろ著者の人となりが直に伝わってきて、心持ちがよくなる。それになんと言っても読みやすい。
内容もなかなか斬新で、洞察に富む。たとえば「2、3歳の可愛い時期を一緒に過ごしているんだから、たとえ子供が成長してぐれたりしても、これで元を取ったと思う」など、(子供を育てたことのある)私には目から鱗であった。言っていることは鋭いのだが、表現が丁寧というか、あるいは腰が引けてるのかも知れないが、非常に優しいので、感心することはあってもまったく反発を覚えることがなかった。例を示そうか。
「時には「人生にはなんの意味もないのかもしれない」というような、身も蓋もないような地点に立ち戻って、周囲が押しつけて来る価値観をゆさぶる必要があるのではないか、ということぐらいはいわせて貰ってもいいのではないか、と思います。」
ずいぶん回りくどい言い方だが、全編がこんな感じで、相手に対する気遣いが感じられるのである。
個人的には、著者の子供時代の話が興味深かった。私は、著者について、育ちが良い人だというイメージをずっと持っていたが、実際はかなり苦労しているらしく、それもあまり苦労だとも思っていないフシもあり、著者に対するイメージが劇的に変わった。シナリオ作家、山田太一の作品に、これまで以上に興味がわいた。

投稿日: 金曜日 - 12 月 30, 2005 10:42 午後          


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