木曜日 - 12 月 21, 2006なぜ美人ばかりが得をするのか ★★★★男は女の何に惹きつけられるのか、女は男の何に惹きつけられるのかといったことを、さまざまな実験データを使って、心理学的、人類学的、生物学的にアプローチするきわめて真摯な本。タイトルと表紙の印象からあまり気が進まずに読み始めたが、非常に多岐に渡る素材がうまくまとめられており、言ってみれば現在の英知が凝縮されたような本である。ちなみに原題は『Survival
of the Prettiest -- The Science of
Beauty(美しいものは生き残る
--
美の科学)』(こちらの方がしっくり来るような……)。
男が女のどこに美を感じるか(相手の美に反応しやすいのは男の方だという。「男は写真で、女は履歴書で相手を選ぶ」)は、相手の生殖能力がその源になっている。つまり、丈夫な子孫を生むことができる体型、相貌に対して男は美を感じ、それに反応するという。いわゆる「美人」の顔は平均的な顔で、平均的な因子を持つ個体が長生きしやすいという事実から、平均顔である美人が好まれる。また、男がもっとも魅力を感じる(らしい)腰のくびれも、妊娠出産に最適な状態を表しており、女の若さも同様の理由で男が求めることになる。つまり男は、遺伝子を確実に残してくれる(可能性の高い)相手に魅力を感じ、恋をしてセックスに至るということらしい。要するに、人間もただの動物にすぎず、自然の力で動かされているに過ぎないという結論なのだろう。 至極当たり前の結論が導き出されるわけだが、このあたりの論証で非常に多くの実験データが引用されており、なかなか説得力がある(実験データの信憑性についてはいくぶん疑問が残るものもあるが)。 人間の美について幅広く探求しており「美人百科」といった趣もある。何度も読める良書だ。 水曜日 - 12 月 20, 2006食品の裏側 ★★★★食品添加物の元営業担当者が、食品添加物利用の現状について紹介し、同時に告発する話題の書。
非常に読みやすく(1〜2時間もあれば読める)、また構成がよく練られており、内容もおもしろい。さすが元トップセールスマン! 思わずセールス・トークに乗せられそう。 著者は、食品添加物を完全に否定するのではなく、その利点について認めながらも(基本的には食品添加物は極力排除すべきだというスタンスである)、デタラメに乱用されている現状について警鐘を鳴らしている。 著者はあちこちで添加物の講演を行っているらしく、それも非常におもしろいということだ(知人の参加者の話)。講演の場では、白い粉(食品添加物)を何種類か混ぜて豚骨スープの味を作るという実演をやるらしく、参加者の間で驚嘆の声が上がるらしい(本書にもそのあたりについて記述がある)。今一般的に売られている食品のほとんどは大体それに近いものだ。ニセモノ食品を何の説明もなく与えられている消費者は、まさに家畜同然。せめてどういうものを使っているか食品メーカーは説明する義務があると思うんだが(それは本書の主張でもある)。 ここで書かれていることの多くは他の本や雑誌でもよく取り上げられているが、それでも話の展開が秀逸でなおかつ説得力がある(なんせ現場で売っていたんだから)ので、これまでの多くの添加物告発本とは一線を画す出来になっている。添加物入門書として格好の一冊。これを読んだらコンビニ弁当を食べられなくなる……かも。 月曜日 - 12 月 11, 2006愛はなぜ終わるのか ★★★☆人間の恋愛衝動や性衝動を、人類学的観点から説き明かす書。ほとんどは仮説や推測の域を出ないし、ちょっと眉唾な感もあるが、それでもこういう分析はなかなかおもしろい(そしてある部分鋭い)。少なくとも、そこいらへんの構造主義者の場当たり的社会分析よりもはるかに説得力がある。
著者は人類学者であるが、自然人類学や文化人類学的なアプローチのみならず、リーボヴィッツらの大脳生理学的アプローチも取り入れている。もちろん、恋愛の構造を分析するには必要な要素になるだろうが。 男も女も遺伝子を残すために恋愛しセックスするが、男の場合、その生理構造上、不特定多数の女と交わることで遺伝子を残す可能性を高めることができる。一方女の場合は、できた子供を大切に育てることで、遺伝子を残す可能性を高めることができる。そのため男は、子供ができたら浮気に走りやすいし、女は子供が自立できる程度に育った時点で、男の助けが不要になり、別の遺伝子を残す可能性を探る。結婚4年目で離婚率がもっとも高くなるのは、このためであり、これは原始社会から人間が引きずっている性質だと著者は言う。ともかく男も女も、生物学的には一夫一婦の枠に収まらず、不特定多数と交流したがる(そういう衝動がある)ものだというのが著者の主張である。 これまでのさまざまな分野の研究成果をまとめて(というか都合の良い部分を集めて)、人類学を駆使しながら恋愛のカラクリを解明するというのが全体的な印象で、学術書というよりエッセイに近いと考える方が妥当かも知れない。 土曜日 - 11 月 18, 2006二人の天魔王 ★★★☆現在の織田信長のイメージは戦後の映画で作られたイメージであって、それ以前は「秀吉の主君」という以上の脈絡で語られることはなかったというのが、本書の趣旨。同時に、織田信長がモデルとしていたのが、室町幕府六代将軍で天魔王と呼ばれていた足利義教だという。足利義教は、今では、どうしようもないマヌケ将軍というイメージが強いが、その生き様や業績は歴史上破格で、さまざまな武将がその方法論を踏襲したという。
実は、この本を読んでもっともビックリしたのは(本書の大部分が割かれている)信長のことではなく、義教のまったく新しいイメージであった。その後、義教関連の本を探したのだが、非常に少ないことがわかった。ましてやこういう(現代人にとって)斬新なイメージで書かれているものは皆無といって良い(小説では一冊あった)。『籤引き将軍足利義教』という本も読んでみたが、こちらは従来の説を踏襲していて面白味に欠ける。 正直、この本に書いていることが本当かどうかはよくわからない。斬新な説であるのは確かだが、以上のような理由で確かめようがない。本書全体にちょっと胡散臭さも漂うのだが、説得力もあるにはある。非常に評価が難しいところである。 日曜日 - 11 月 05, 2006古寺再興 ★★★法隆寺の大修理、薬師寺の再建に携わった宮大工、西岡常一の伝記。
西岡常一入門には格好。西岡常一ファンの私としては、法隆寺、薬師寺の建築を描いた箇所にはあまり目新しさはなかったが、時代的な背景はよくわかった。そのあたりを一番買いたいと思う。 金曜日 - 11 月 03, 2006コンクリートが危ない ★★★コンクリートが危ない
小林一輔著 岩波新書 総合:★★★ 意外性:★★★☆、読みやすさ:★★☆、娯楽性:★★☆、訴求力:★★★☆ 1960年代半ば以降に作られた日本のコンクリート建築物がいかに危険か説く本。
昨今違法マンションが話題だが、建築基準法に合致している建築物でも事情は大して違わないというのがよくわかる。 1960年代半ば以降、建築ラッシュのために原料(コンクリートの資材)不足に陥り本来適さない材料がコンクリートに使われたこと、仕事の合理化のために水分の多すぎる生コンが使われたこと、建築物自体に手抜きが横行していることなどが本書で指摘されている。同様の事実は、かつてNHK特集でも放送されたが、それ以上に詳細で多岐に渡り、衝撃的な内容であった。 著者はコンクリートの専門家らしく、例によって専門的でわかりにくい箇所も結構あるが、全体を通じて非常に論理的な構成になっている。 土曜日 - 10 月 14, 2006囲碁の世界 ★★★★ずいぶん前に買った本だが、最近TVアニメの『ヒカルの碁』を見たこともあって再読してみた。前に読んだときは、囲碁のルールも知らず、囲碁界の状況も知らずという状態だったこともあるのか、それほどの感激はなかった。たしかに読みやすく、囲碁にも興味を持ったが(この本を読んでから囲碁のルールを憶えたのだ)。だが、今回読んでみてなんて面白い本なんだと思った。
おそらく『ヒカルの碁』で扱われている囲碁界の事情は、『ヒカルの碁』を見なくてもこの本を読めば一通り知ることができる。しかも、当時の海外囲碁事情や、江戸の囲碁史、囲碁よもやま話なども満載で、内容も非常に面白い。囲碁の世界を俯瞰できる優れ本である。 ただし現在絶版のようで、古本を入手するか図書館で借りるかしか方法はない。 水曜日 - 10 月 04, 2006キリスト教は邪教です! ★★★『アンチクリスト』を現代語に訳したものらしい。原書に当たったことは(当然ながら)ないし翻訳版も読んだことはないので、どの程度忠実に訳されているかはさだかではないが、非常に読みやすい。「超訳」に近いのかなとも思ったのだが、それでもこういう訳し方は『アンチクリスト』の趣旨から言って正しいと思う(著者もそう言っているようだが)。
翻訳はすばらしいが、『アンチクリスト』自体の主張はちと極端で独断な感じがしないでもない。ただ、キリスト教の特徴はよく言い当てているとは思う(度が過ぎる箇所もあるが)。こういうものを読んでキリスト教に対する見方を一新するのも、欧米かぶれの日本人には必要かなと思う(いい加減クリスマスもバレンタインもやめたらどうだと思うオジの独り言)。 金曜日 - 9 月 29, 2006冤罪はこうして作られる ★★★☆日本の冤罪の状況、冤罪を生み出す土壌、冤罪を生み出さないために今後司法はどうするべきか、などについてわかりやすく書いた本。
この手の本はわりと多いこともあり、積ん読がずいぶん続いていたが、読んでみるとなかなかインパクトのある本であった。この本を読んだら、日本の冤罪は、今明るみに出ているものの数倍は潜在するのではないかと思ってしまう。次の司法改革で少しは変わってほしいとも思うが、先だっての行政改革で何も変わっていない(どころか悪くなっている)ところを見ると、期待は持てそうにない。 少なくとも自分がそういう場に放り出されないよう気をつけようと思わせる一冊。 火曜日 - 9 月 12, 2006遙かな町へ ★★★「日常に疲れた中年男がある日突然タイムスリップして、中学生時代の自分に戻る」というストーリーのマンガ。
またタイムスリップかよと思うのは私だけ? タイムスリップするにしてもそれなりに説得力を持たせてくれよと思うのも私だけ? 自身の過去を見つめ直すエッセイというふうに読んだらそれなりに面白いが、タイムスリップ自体にしらけてしまう私は、こういう設定に拒否反応を示してしまう。アホクセーと思うのだな。谷口ジローの絵も、当たり障りがなくてあまり好きじゃないしね。 でも、世間ではこのマンガが人気あるらしく、舞台の倉吉はプチ・ブームとか。JRの広告でも見かけた。素直に読めば面白いのかも。 土曜日 - 9 月 09, 2006ヘリコバクター・ピロリ菌 ★★1997年の発売当時に買っていて、2回読もうとして挫折した因縁の本。
今回とうとう最後まで読んだが、途中でやめた理由があらためてわかった。内容がいかにも専門バカという感じで面白さに欠ける部分が非常に多い。楽しく読める箇所もあるにはあるが、専門外の読者にとってはどうでも良い事項がつらつらと続くので、読んでいて飽きる。今やピロリ菌も非常に有名になって、当時のような情報としての希少性がなくなったため、今この本を読んで目新しい発見をするというのは、少なくとも専門外の一般読者にはないのではないかと思う。 日曜日 - 9 月 03, 2006GOTTA! 忌野清志郎 ★★★☆GOTTA!
忌野清志郎
連野城太郎著 角川文庫 総合:★★★☆ こちらも清志郎関係で読んだもの。清志郎の生い立ち、RCサクセションのデビューから売れるまでを、清志郎のインタビュー中心に追っていく。
RCサクセションがどういうグループだったかよくわかりました。 木曜日 - 8 月 31, 2006忌野旅日記 ★★★☆忌野旅日記
忌野清志郎著 新潮文庫 総合:★★★☆ 日本ロック界のカリスマ、忌野清志郎が、彼の周辺の人物たち(三浦友和、泉谷しげる、山下洋輔ら)について語った内容を一冊の本にまとめたもの。
最近、忌野清志郎に非常に興味を抱くようになって、今回この本に手を出したが、いやいやなかなか内容も面白い。文章の方もヒジョーに達者である。もっとも内容はほとんどが語ったもので、文章にまとめたのはゴーストライターらしい。だが、これだけの文章を書ける人はなかなかいない。もしかしてもう世の中に名前が出ているかも知れない。 個人的には、三宅伸治、梅津、片山(ts)らのRC周辺グループとの関係が興味深かったが、山下洋輔と高井麻巳子の項が非常に笑え、万人受けすると思う。機会があればこの項だけでもご一読を(現在絶版中らしいが)。 ちなみに、掲載されている絵はすべて清志郎が描いたらしい。 火曜日 - 8 月 29, 2006まんが道(1)〜(23) ★★★NHK銀河テレビ小説で放送された『まんが道・青春編』を最近見る機会があり、それに触発されて通しで読んでみた。映画『トキワ荘の青春』などでお馴染みの世界が藤子不二雄Aこと安孫子素雄の視点から描かれていて面白い。出てくる登場人物も今考えたら豪華絢爛。原作版を読み返して、TV版が非常によくできていたことをあらためて実感した。
TV版は森高千里や鈴木保奈美、天知総子、江守徹、肝付兼太など、異色、豪華キャストを配し、脚本も布施博一とスタッフも一流。余談ではあるが。 火曜日 - 8 月 22, 2006新版 ぼくが肉を食べないわけ ★★★★タイトル通り、肉食をやめるよう、いろいろな観点から説き起こす本。
著者は、多方面に造詣があるようで、さまざまな文書から引用している。どれもそれなりに説得力はあるが、引用資料に一抹の胡散臭さも感じられる。要するに、都合の良い部分だけピックアップしてんじゃないか、というような。もちろんこういう疑問が出るのは、ここで告発されている対象(英国政府だったり食肉産業だったりするが)が、さまざまな説から都合の良い部分だけピックアップして、自説を展開しているためである(これについては本書でも再三告発されている)。であるため、こういう疑問が起こるのは、ある意味致し方ないことかもしれない。 だが、翻訳は最悪である。そのため、非常に読みづらい本になってしまっている。残念。 本書は、6章構成になっているが、圧巻は第1章である。ここだけ読んでも十分「目から鱗」である。基本的に、人間は本来草食であり、身体自体も草食に合った構造になっているということを述べている。あわせて、ベジタリアン食が健康上のさまざまな問題を(もっとも手っ取り早く)解決するものであるにもかかわらず、さまざまな分野の圧力でこのことが封印されていると言うのだ。 このような言論を封印する側の理屈に対して反対意見を述べているのだが、中でも秀逸なのが「原始時代から男は狩り、女は採取という生活を営んでいた」という論に対する反論である。これを文化人類学的アプローチからデタラメであると述べ、こういう社会は社会システムとしても成立しえないと言う。つまり狩嶺に依存するような社会は、(狩嶺が失敗した場合の)リスクが大きすぎて存続しづらく、採取(ひいては栽培)に依存する社会でなければ存続できないと言うのだ。現代文明の影響をあまり受けていない(いわば「未開」の)社会に対する調査結果も、このことを裏付けている(文化人類学的なアプローチ)。つまり人間は本来、食料を植物に依存していたのだ。歯や内臓の構造がヒトと近い類人猿は、どれをとっても草食であり、身体の構造は肉食獣と根本的に違うのだとも述べている。このあたりは自然人類学的なアプローチである。非常に説得力があり、これだけでも元が取れると言うもんである。 第2章では、BSEの問題について述べているが、この章は、英国政府の欺瞞を年代記的に告発することに主眼が置かれており、少し退屈する(本書の翻訳者は「第2章が圧巻」と書いているが)。下手な翻訳と相まって、読むのがかなり苦痛になる。ここはとばしても良いだろうと思う(現に私は第2章で1回挫折し、1年近く読むのを中断していた)。BSEの問題については、『もう肉も卵も牛乳もいらない!』や『ハンバーガーに殺される』などの本の方がわかりやすく包括的である。 第3章は、屠殺場(現在の日本では「屠場」と呼んでいる)でどのような残虐なことが行われているかの告発である。身震いするような現状がリアルに描かれている。 第4章は、肉食がさまざまな病気の原因になっていることが書き連ねられており、中でもガンや白血病がウイルス性疾患(しかも家畜からも伝染する)であるとする説が目新しく、この分野の本を読んでみたくなった。ここも非常にスリリングで一気に読むことができる。 本書は、目新しさも意外性も説得力もあり、相当な好著なのであるが、なにしろ翻訳が悪く読みづらい。読了するのに忍耐力がいるかもしれない。そのあたりが返す返すも残念である。 日曜日 - 8 月 13, 2006山之口貘詩文集 ★★★★詩人、山之口貘の詩(+散文)集。
古典の類だから、今さらあれこれ言う必要はないだろうが、山之口泉氏(貘氏の長女)によると、これまで山之口貘の詩集が入手困難だったらしく、そういう意味で非常に意義のある本である。山之口貘の詩は、40年の生涯で197篇(少な!)だそうで、本書には、そのうち約80篇が収録されている。 山之口貘という詩人については、私は高田渡の歌で知ったわけだが、それにしてもインパクトのある詩である。それでいて、上品なおかしみが漂っている。 高田渡も歌っている詩「生活の柄」も本書に収録されていたが、詩で読んでみるとかなりイメージが違っていた。この曲に限っては、高田渡の歌はあまりよくなかったかなと思った(他は良いものが多いと思う)。 土曜日 - 8 月 12, 2006幸福の木の花 ★★☆幸福の木の花
奥村チヨ著 講談社文庫 総合:★★☆ 意外性:★★☆、読みやすさ:★★★、娯楽性:★★★、普遍性:★★、訴求力:★★☆ 最近、奥村チヨの過去の歌を聴いて(「恋の奴隷」とか)、どういうメンタリティを持った人だったのか興味を持ったので、読んでみた。
「恋の奴隷」は、今聴くと内容がすごいので、歌手に興味が出たのだが、本人はこの歌がイヤで(やっぱり……)、歌手としてのイメージもこの歌のせいで大きく変わったらしい。女性ファンが一斉に離れていったとか……。 前半は、当時の芸能界の状況などがよくわかって、その辺はなかなか面白かったが、後半の家族の話や夫(浜圭介氏)の話などは、ごちそうさまっちゅうか、幸せでよござんしたねっちゅうか……ともかく少ししらけてしまったわけだ。 金曜日 - 8 月 11, 2006近所がうるさい! 騒音トラブルの恐怖 ★★★☆日本で増えている近所との騒音問題について言及した本。著者は建築音響の専門家。つまり、建築における騒音対策が専門。それで、建築的な観点から明確な解決策が示されるかと思いきや、最終的には「騒音を気にしないことが解決策」と、なかなかつれない。
確かに近隣との騒音問題は、環境騒音と違い、ほとんどが本来我慢できる範囲のもので、騒音主に対する感情的な問題が絡んでいる(著者のいわゆる「煩音」)ことはわかるし、「気にしないことが解決策」というのもよくわかる。だが、本書全体を通じて、これまで実際に起こった騒音関連事件が数々紹介されている(戦慄すべき事例もある)のに、この結末は少しもの足りない。読み終わって暗澹たる気持ちになってしまった。 結局のところ、騒音問題は難しいという結論に達するわけか……。 木曜日 - 8 月 10, 2006うつうつひでお日記 ★★★☆傑作『失踪日記』を執筆していた時期に、平行してつけていたマンガ日記をまとめたもの。『失踪日記』ほどの強烈なインパクトはなく、ブログみたいな「何を食べて何を見た」というレベルの日記ではあるが、著者の経験が経験だけに、楽しく読める(と思う)。
ろくに仕事もせず(できず)図書館に通いづめで(傍目には)のんびりした生活を送っているなど、どこか私自身にも似ており(格闘技(K1やPRIDE)をテレビでよく見ている点も共通……曙評など共感)、身につまされる。将来に対する不安などもよくわかるし……。 この後、著者は『失踪日記』でブレイクするわけで、その辺の事情は、世の中に出ていく新進作家の境地と捉えることもでき、ある意味、サクセス・ストーリーみたいな感じで読むこともできる。俺もがんばらにゃあと思わせる。内容は暗いが元気が出る(かもしれない)。 月曜日 - 8 月 07, 2006セブンセブンセブン アンヌ再び… ★★☆セブンセブンセブン
アンヌ再び…
ひし美ゆり子著 小学館文庫 総合:★★☆ 意外性:★★☆、読みやすさ:★★★、娯楽性:★★★、普遍性:★★☆、訴求力:★★☆ 「ウルトラセブン」で「アンヌ隊員」を演じたひし美ゆり子のエッセイ。「ウルトラセブン」の撮影話や「セブン」観などもある。
面白いことは面白いが、「アンヌ隊員」に思い入れのない人が楽しめるかどうかは不明。 日曜日 - 8 月 06, 2006わが子に教える作文教室 ★★★☆子どもと作文を通じてコミュニケーションをとろう、そして子どもを作文好きにさせようというテーマで、その具体的な方法をおもしろおかしく綴った本。良質の教育論にもなっている。また、著者が自身の作文教室で触れた子どもの実際の作文も紹介しており、楽しく読める。
金曜日 - 7 月 28, 2006オシムの言葉 ★★★☆サッカーの日本代表監督に就任した、イビツァ・オシムの現在と過去に迫るドキュメント。
オシムという監督が世界中で尊敬を集めていることを、あらためて知った。 ユーゴスラビア代表監督時代、国家としてのユーゴスラビアが崩壊し、それにもかかわらず代表チームをまとめあげていたという。サッカー監督としての技術だけでなく、その人間性をも物語る逸話である。 ユーゴ代表の話は確かにこの本の目玉なのだろうが、この部分があまりに長く、途中少し退屈した(この本のテーマにかかわる大事な部分なのではあるが)。日本代表監督との関連で考えると、ジェフ市原の監督時代の話(つまりいかにチームを強化したか)をもっと知りたかったところだ。もっとも、この本は、日本代表監督就任前に出たものだから、そのあたりについてはしようがないと言えばしようがない。 金曜日 - 7 月 14, 2006人間は脳で食べている ★★★☆おいしさは、味覚や食欲だけでなく、情報によって大きく影響を受けることを述べた本。
非常に説得力があり、思わずうなってしまう。また、本文中に、学生による合いの手みたいなものが入っており、なかなか面白く、しかも読みやすくなっている。こういうスタイルはあまり目にしたことがないが、これはこれで新鮮である。 日曜日 - 7 月 09, 2006大きな古時計の謎 ★★★「大きな古時計」、「ドナドナ」、「ロンドン橋」など、おなじみの歌のウンチクを紹介した本。
確かに楽しく読めるが、それだけだ。あまり残るものがなかった。 それから「ロンドン橋」の解説で、ロンドン橋に人身御供を捧げたとか、それが「ロンドン橋」のあの遊びに繋がっているとか、少し深読みが過ぎるんじゃないかと感じたが、いかがなもんだろう。 水曜日 - 7 月 05, 2006妻たちの思秋期 ★★★☆学生時代(1980年代)ある教師が講義で奨めていた本で、20年来気になっていた本。ついに購入した。上のAmazonリンクをたどっていただくとわかるが、ユーズド商品(古本)はなんと「1円」で売られている。手数料などを入れると結果的に341円になるが、それでも安い。よく売れてよく古本屋に流れた本なのだろう。
内容はなかなか重く、当時(そして今でも連綿とこの流れは繋がっていると思うが)の、虐げられる主婦の実像が赤裸々に描かれている。この本は、新聞連載をまとめたものらしいが、登場人物たちに同意する声が非常に多かった(反対する声も非常に多かったらしいが)というのが、なによりも当時の社会を反映しているのではあるまいか。今では(社会潮流の変化などにより)いくぶん変わった部分もあるが、「男社会によって虐げられる女性」という構図は根底に残っているようだ。 企業戦士の夫との生活が破たんし、アルコール依存症になってしまったり離婚を経験したりした数人の女性の物語を軸に話が進んで行くが、観念奔逸のように、次から次と新しい(主役クラスの)女性が出てきて戸惑う箇所も多い。いっそのこと、「○○子の場合」みたいな形で明確に区切った方が分かりやすかったんではないかと思う。 また、やたらと精神科医が登場し、問題夫や主役女性の精神分析をやるのだが、これがかなり独善的で相当違和感を感じる。たとえば「ミニカーの収集癖が親の愛情の欠如のため」らしいのだが、またずいぶん決めつけちゃったもんだねえと思う。 ただそういう部分を別にすると、告発物として、センセーショナルでよくできている。ろくでもない夫ばかり出てくるが、これが現実なんだろうなとも思う。思い当たるフシもなきにしもあらず……だ。ちょっとだけ反省した私でした。 土曜日 - 6 月 24, 2006ウェブ進化論 ★★☆シリコンバレーでベンチャービジネスをやっているというどこぞの社長が、現在のネット潮流について、好き勝手に語った本。
「Web 2.0」について知りたかったんで衝動買いしてしまったんだが、衝動買いは良くないことを改めて悟った次第。 確かにこの本を読んで初めて知ったこともあるが、飲み屋でオッサンが声高にだべっているような本で、なんとも軽い。 金曜日 - 6 月 23, 2006人はなぜ恋に落ちるのか? ★★★☆人はなぜ恋に落ちるのか?
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恋と愛情と性欲の脳科学
ヘレン・E・フィッシャー著、大野晶子訳 ソニーマガジンズ 総合:★★★☆ 意外性:★★★☆、読みやすさ:★★☆、娯楽性:★★★☆、普遍性:★★★☆、訴求力:★★★☆ 恋愛活動によって脳内がどのように反応しているか、生化学的に解明を試みる本。
かつて、脳内化学物質の所在が明らかになってきたとき(1980年代中ごろ)に、『ケミストリー・オブ・ラブ』(恋愛の際に分泌される脳内化学物質について解明した本)という本を読んで、非常に感心したというか目からうろこが落ちた記憶があるが、この本も同様の方向性を持っている。ただ、この本では、生化学よりも自然人類学的なアプローチが多く、その辺は少し辟易した(著者が人類学者だから仕方ないが)。 「男は原始時代から狩猟をして……」などという記述が出てくると、「そのあたりから検証した方がいいんでないかい」と思ってしまう。こういった自然人類学的なアプローチはほとんどが独断だと感じられる。 また、さまざまな化学物質が唐突に紹介されて、わけがわからない箇所がいくつかあった。そういう意味で非常に読みづらい本であった。 とは言うものの、脳内化学物質についてよくまとめられており、こういう分野の概要を把握する上では良い本かも知れない。 月曜日 - 5 月 01, 2006文盲 アゴタ・クリストフ自伝 ★★★☆『悪童日記』で有名な(らしい)ハンガリー人の作家、アゴタ・クリストフの自伝的エッセイ集。
ハンガリー時代の貧しい幼年時代、亡命による移民生活、作家になるまでの過程などが平易な文章でつづられている。 子供時代、一種の活字中毒者だった著者が、スイスに亡命することになり、活字(フランス語)がいっさい読めない生活を送らざるを得なくなった(つまり文盲になったわけだ)など、その波乱万丈な生き方に驚きもし、それを糧とした生き方に感心しもする。 『悪童日記』を超える作品を書けなくなったために新作を発表しなくなった(「訳者あとがき」より)という潔さにも敬服する。 水曜日 - 4 月 26, 2006宮大工 千年の知恵 ★★★☆「文化財専門の最後の宮大工」、松浦昭次の建築論。
西岡常一氏に次ぐ、2人目の人間国宝宮大工だそうだが、語っている内容が西岡常一氏に非常によく似ている。西岡常一氏のコピーなどではなく、まったく異なるアプローチから同じ結論に到達しているという感じで、名人の感じること、考えることは大体同じことなんだなあと感心した。特に建築基準法への告発は溜飲が下がる(何とかならんもんか → 建築基準法)。 著者は頑固な職人と言われるらしいが、内容がまったく押しつけがましさがなく、立派な人と話をしているときに感じるような爽快さを覚える。 火曜日 - 3 月 28, 2006小津安二郎 ★★★☆本人や周囲が書いたり語ったりした題材から小津作品に正攻法で迫る。知らないエピソードも非常に多く掲載されており、小津ガイドブックとして非常に優れている。しかも読みやすい。真面目で良心的な(笠智衆のような?)良い本である。
月曜日 - 2 月 27, 2006アマゾンの秘密 ★★★☆昨年、情報センター出版社が『潜入ルポ
アマゾン・ドット・コムの光と影』という本を出していて、センセーショナルな新聞広告をうっていた。その広告から受けるイメージは、(少なくとも私の場合)アマゾンは秘密主義に隠された悪徳企業というものだったが、実際にこの本を読んでみると、アマゾンのパート従業員に対する待遇があまり良くないという程度の内容だった。だが、例の広告のイメージは強かったらしく、アマゾンが悪徳企業だと言っている人が実際に何人か周囲にいたのだ。情報センター出版社と言えば、かつては素晴らしい本を立て続けに出していたという印象があるが、こういう情報操作までやるのか……と少し失望した次第である。そういうわけで、この本は、竹林軒の2005年のワーストに決定!(内容はそれほど悪くないが)
私は、アマゾンが優良企業だとは思わないが、利用する側として非常に高く買っているので、本当に暗部があれば知りたいところだし、内部事情も知りたいと思っていた。 そんなわけで、普段はビジネス書の類はまったく読まないが、この本に手を伸ばしたわけだ。この本を書いた人は、アマゾン・ジャパンの立ち上げの中心メンバーで、アマゾン・ジャパンの内部をよく知っており、そういう意味でも先述の本とは、情報の希少性という点でまったくレベルが違う。立ち上げのときの奮戦記がメインだが、そのあたりもなかなかスリリングで面白い。 本書で彼が何度も口にしているのが、創業時からの伝統というべきアマゾンの文化である。アマゾンには、独特の文化が流れていて、それがアマゾンの魅力であり力であるというのだ。このあたりは、アップルなどと共通する。どちらもガレージ・ビジネスから始まったという点でも共通である。こういう一種革新的な気風は、創業者のベゾスによってもたらされたのではないかと著者は言っている。ただしその文化が今でも継続されているかどうかは疑問だとも言っている。というのも、著者はアマゾン・ジャパンの立ち上げ後、しばらくして辞めているからだ。彼をアマゾン・ジャパンに引っ張った人が、本社とぶつかって辞めたことが主な原因だが、アマゾン自体の変節を感じていたのだろうと思う。そういう意味で、この本は、同窓会的な懐古趣味に彩られているとも言える。もちろん読んでいて心地良いが。 そういう著者であるため、アマゾンの良い面と悪い面を実直に吐露している。アマゾンの秘密主義についても、悪の温床であるかのように書いていた情報センター本と違って、「株価対策に過ぎない」と明快である。 アマゾンについてよく考えたい人に対して、いろいろな情報を与えてくれる本である。 日曜日 - 1 月 29, 2006ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ ★★★★1988年に突然絶版になった人気絵本『ちびくろサンボ』。版元の岩波書店からは、そのあたりのいきさつがまったく発表されなかったため、『ちびくろサンボ』に愛着を持つ人々はいぶかしく感じていた。本書はそのあたりのいきさつと、『ちびくろサンボ』出版の経緯、海外での『ちびくろサンボ』事情など、『ちびくろサンボ』について多面的にアプローチしている。
この『ちびくろサンボ』絶版事件の発端は、米国(元々はカナダ)でこの本が(黒人に対する)差別本ではないかと一部の反差別団体から告発があり、それを受けた(迎合した?)日本国内の一部の反差別団体から岩波書店に大して圧力があったということらしい。一方岩波書店側もこれについて深く議論するのではなく、なんと2日後に絶版を決めたという。 私自身、子供の頃この本が好きで、絶版の話を聞いたとき素直に「なんで?」と思ったほどだ。少なくとも私はこの本で差別意識が助長されたことはない。ただ、一部の黒人がこの本について不快感を持っているという話を聞いたので、それだったら問題があるわなとは思っていた。だがこの本によると、その辺の事情もちょっと違っており、この本を差別的と捉えるかどうかは黒人の中でも意見が分かれるという(もちろんその他の人の間でも)。 この本では、『ちびくろサンボ』が差別的ではないという主張を繰り返しているが、だからといって著者が身勝手な保守人間というわけではない。著者は、反差別問題にたずさわってきた人で、同和問題についても造詣が深い。そういうバックグラウンドがあるので、読む方もその意見を真摯に検討することができる。しかも、いい加減なとらえ方をしておらず、徹底的に問題性を洗い直し、その上で『ちびくろサンボ』はシロであるという結論を導き出している。 同和問題とも絡めて差別問題を論じており、主張も明快である。『ちびくろサンボ』絶版が決まる前に、少なくとも本書程度の議論を告発側と被告発側(岩波書店)との間でやって欲しかったと思う。だが一方で、こういう本が出てきて差別について真剣に考えるきっかけを作ったことは、結果的にではあるが評価できることかもしれない。全体に非常に読みやすいが、最終章の「反差別の思想 {被差別の痛み論批判}」は、引用も多く読みづらかった。この本の主張を昇華させているような重要な箇所だっただけに、もう少しわかりやすくまとめられていれば良かったとも思う。 ちなみに岩波書店から出て絶版状態にあった『ちびくろさんぼ』は、現在、瑞雲舎から復刻販売されている。 |