ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ ★★★★


ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ
灘本昌久著
径書房
総合:★★★★
意外性:★★★★、読みやすさ:★★★☆、娯楽性:★★★、普遍性:★★★★、訴求力:★★★★

1988年に突然絶版になった人気絵本『ちびくろサンボ』。版元の岩波書店からは、そのあたりのいきさつがまったく発表されなかったため、『ちびくろサンボ』に愛着を持つ人々はいぶかしく感じていた。本書はそのあたりのいきさつと、『ちびくろサンボ』出版の経緯、海外での『ちびくろサンボ』事情など、『ちびくろサンボ』について多面的にアプローチしている。
この『ちびくろサンボ』絶版事件の発端は、米国(元々はカナダ)でこの本が(黒人に対する)差別本ではないかと一部の反差別団体から告発があり、それを受けた(迎合した?)日本国内の一部の反差別団体から岩波書店に大して圧力があったということらしい。一方岩波書店側もこれについて深く議論するのではなく、なんと2日後に絶版を決めたという。
私自身、子供の頃この本が好きで、絶版の話を聞いたとき素直に「なんで?」と思ったほどだ。少なくとも私はこの本で差別意識が助長されたことはない。ただ、一部の黒人がこの本について不快感を持っているという話を聞いたので、それだったら問題があるわなとは思っていた。だがこの本によると、その辺の事情もちょっと違っており、この本を差別的と捉えるかどうかは黒人の中でも意見が分かれるという(もちろんその他の人の間でも)。
この本では、『ちびくろサンボ』が差別的ではないという主張を繰り返しているが、だからといって著者が身勝手な保守人間というわけではない。著者は、反差別問題にたずさわってきた人で、同和問題についても造詣が深い。そういうバックグラウンドがあるので、読む方もその意見を真摯に検討することができる。しかも、いい加減なとらえ方をしておらず、徹底的に問題性を洗い直し、その上で『ちびくろサンボ』はシロであるという結論を導き出している。
同和問題とも絡めて差別問題を論じており、主張も明快である。『ちびくろサンボ』絶版が決まる前に、少なくとも本書程度の議論を告発側と被告発側(岩波書店)との間でやって欲しかったと思う。だが一方で、こういう本が出てきて差別について真剣に考えるきっかけを作ったことは、結果的にではあるが評価できることかもしれない。全体に非常に読みやすいが、最終章の「反差別の思想 {被差別の痛み論批判}」は、引用も多く読みづらかった。この本の主張を昇華させているような重要な箇所だっただけに、もう少しわかりやすくまとめられていれば良かったとも思う。
ちなみに岩波書店から出て絶版状態にあった『ちびくろさんぼ』は、現在、瑞雲舎から復刻販売されている。

投稿日: 日曜日 - 1 月 29, 2006 10:39 午後          


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