アマゾンの秘密 ★★★☆


アマゾンの秘密 世界最大のネット書店はいかに日本で成功したか
松本晃一著
ダイヤモンド社
総合:★★★☆
意外性:★★★☆、読みやすさ:★★★★、娯楽性:★★★☆、普遍性:★★★、訴求力:★★★☆

昨年、情報センター出版社が『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』という本を出していて、センセーショナルな新聞広告をうっていた。その広告から受けるイメージは、(少なくとも私の場合)アマゾンは秘密主義に隠された悪徳企業というものだったが、実際にこの本を読んでみると、アマゾンのパート従業員に対する待遇があまり良くないという程度の内容だった。だが、例の広告のイメージは強かったらしく、アマゾンが悪徳企業だと言っている人が実際に何人か周囲にいたのだ。情報センター出版社と言えば、かつては素晴らしい本を立て続けに出していたという印象があるが、こういう情報操作までやるのか……と少し失望した次第である。そういうわけで、この本は、竹林軒の2005年のワーストに決定!(内容はそれほど悪くないが)
私は、アマゾンが優良企業だとは思わないが、利用する側として非常に高く買っているので、本当に暗部があれば知りたいところだし、内部事情も知りたいと思っていた。
そんなわけで、普段はビジネス書の類はまったく読まないが、この本に手を伸ばしたわけだ。この本を書いた人は、アマゾン・ジャパンの立ち上げの中心メンバーで、アマゾン・ジャパンの内部をよく知っており、そういう意味でも先述の本とは、情報の希少性という点でまったくレベルが違う。立ち上げのときの奮戦記がメインだが、そのあたりもなかなかスリリングで面白い。
本書で彼が何度も口にしているのが、創業時からの伝統というべきアマゾンの文化である。アマゾンには、独特の文化が流れていて、それがアマゾンの魅力であり力であるというのだ。このあたりは、アップルなどと共通する。どちらもガレージ・ビジネスから始まったという点でも共通である。こういう一種革新的な気風は、創業者のベゾスによってもたらされたのではないかと著者は言っている。ただしその文化が今でも継続されているかどうかは疑問だとも言っている。というのも、著者はアマゾン・ジャパンの立ち上げ後、しばらくして辞めているからだ。彼をアマゾン・ジャパンに引っ張った人が、本社とぶつかって辞めたことが主な原因だが、アマゾン自体の変節を感じていたのだろうと思う。そういう意味で、この本は、同窓会的な懐古趣味に彩られているとも言える。もちろん読んでいて心地良いが。
そういう著者であるため、アマゾンの良い面と悪い面を実直に吐露している。アマゾンの秘密主義についても、悪の温床であるかのように書いていた情報センター本と違って、「株価対策に過ぎない」と明快である。
アマゾンについてよく考えたい人に対して、いろいろな情報を与えてくれる本である。

投稿日: 月曜日 - 2 月 27, 2006 09:52 午前          


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