新版 ぼくが肉を食べないわけ ★★★★


新版 ぼくが肉を食べないわけ
ピーター・コックス著、浦和かおる訳
築地書館
総合:★★★★
意外性:★★★★、読みやすさ:★★、娯楽性:★★☆、翻訳:★、訴求力:★★★★☆

タイトル通り、肉食をやめるよう、いろいろな観点から説き起こす本。
著者は、多方面に造詣があるようで、さまざまな文書から引用している。どれもそれなりに説得力はあるが、引用資料に一抹の胡散臭さも感じられる。要するに、都合の良い部分だけピックアップしてんじゃないか、というような。もちろんこういう疑問が出るのは、ここで告発されている対象(英国政府だったり食肉産業だったりするが)が、さまざまな説から都合の良い部分だけピックアップして、自説を展開しているためである(これについては本書でも再三告発されている)。であるため、こういう疑問が起こるのは、ある意味致し方ないことかもしれない。
だが、翻訳は最悪である。そのため、非常に読みづらい本になってしまっている。残念。
本書は、6章構成になっているが、圧巻は第1章である。ここだけ読んでも十分「目から鱗」である。基本的に、人間は本来草食であり、身体自体も草食に合った構造になっているということを述べている。あわせて、ベジタリアン食が健康上のさまざまな問題を(もっとも手っ取り早く)解決するものであるにもかかわらず、さまざまな分野の圧力でこのことが封印されていると言うのだ。
このような言論を封印する側の理屈に対して反対意見を述べているのだが、中でも秀逸なのが「原始時代から男は狩り、女は採取という生活を営んでいた」という論に対する反論である。これを文化人類学的アプローチからデタラメであると述べ、こういう社会は社会システムとしても成立しえないと言う。つまり狩嶺に依存するような社会は、(狩嶺が失敗した場合の)リスクが大きすぎて存続しづらく、採取(ひいては栽培)に依存する社会でなければ存続できないと言うのだ。現代文明の影響をあまり受けていない(いわば「未開」の)社会に対する調査結果も、このことを裏付けている(文化人類学的なアプローチ)。つまり人間は本来、食料を植物に依存していたのだ。歯や内臓の構造がヒトと近い類人猿は、どれをとっても草食であり、身体の構造は肉食獣と根本的に違うのだとも述べている。このあたりは自然人類学的なアプローチである。非常に説得力があり、これだけでも元が取れると言うもんである。
第2章では、BSEの問題について述べているが、この章は、英国政府の欺瞞を年代記的に告発することに主眼が置かれており、少し退屈する(本書の翻訳者は「第2章が圧巻」と書いているが)。下手な翻訳と相まって、読むのがかなり苦痛になる。ここはとばしても良いだろうと思う(現に私は第2章で1回挫折し、1年近く読むのを中断していた)。BSEの問題については、『もう肉も卵も牛乳もいらない!』や『ハンバーガーに殺される』などの本の方がわかりやすく包括的である。
第3章は、屠殺場(現在の日本では「屠場」と呼んでいる)でどのような残虐なことが行われているかの告発である。身震いするような現状がリアルに描かれている。
第4章は、肉食がさまざまな病気の原因になっていることが書き連ねられており、中でもガンや白血病がウイルス性疾患(しかも家畜からも伝染する)であるとする説が目新しく、この分野の本を読んでみたくなった。ここも非常にスリリングで一気に読むことができる。
本書は、目新しさも意外性も説得力もあり、相当な好著なのであるが、なにしろ翻訳が悪く読みづらい。読了するのに忍耐力がいるかもしれない。そのあたりが返す返すも残念である。

投稿日: 火曜日 - 8 月 22, 2006 10:05 午後          


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