愛はなぜ終わるのか ★★★☆


愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史
ヘレン・E・フィッシャー著、吉田利子訳
草思社
総合:★★★☆
意外性:★★★☆、読みやすさ:★★☆、娯楽性:★★★、訴求力:★★★☆

人間の恋愛衝動や性衝動を、人類学的観点から説き明かす書。ほとんどは仮説や推測の域を出ないし、ちょっと眉唾な感もあるが、それでもこういう分析はなかなかおもしろい(そしてある部分鋭い)。少なくとも、そこいらへんの構造主義者の場当たり的社会分析よりもはるかに説得力がある。
著者は人類学者であるが、自然人類学や文化人類学的なアプローチのみならず、リーボヴィッツらの大脳生理学的アプローチも取り入れている。もちろん、恋愛の構造を分析するには必要な要素になるだろうが。
男も女も遺伝子を残すために恋愛しセックスするが、男の場合、その生理構造上、不特定多数の女と交わることで遺伝子を残す可能性を高めることができる。一方女の場合は、できた子供を大切に育てることで、遺伝子を残す可能性を高めることができる。そのため男は、子供ができたら浮気に走りやすいし、女は子供が自立できる程度に育った時点で、男の助けが不要になり、別の遺伝子を残す可能性を探る。結婚4年目で離婚率がもっとも高くなるのは、このためであり、これは原始社会から人間が引きずっている性質だと著者は言う。ともかく男も女も、生物学的には一夫一婦の枠に収まらず、不特定多数と交流したがる(そういう衝動がある)ものだというのが著者の主張である。
これまでのさまざまな分野の研究成果をまとめて(というか都合の良い部分を集めて)、人類学を駆使しながら恋愛のカラクリを解明するというのが全体的な印象で、学術書というよりエッセイに近いと考える方が妥当かも知れない。

投稿日: 月曜日 - 12 月 11, 2006 11:24 午前          


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