脚本家・橋本忍の世界 ★★★☆


脚本家・橋本忍の世界
村井淳志著
集英社新書
★★★☆

脚本家・橋本忍の1ファンである著者が、橋本忍の諸作について追ったルポ。
本書で紹介されている作品は、『七人の侍』、『羅生門』、『真昼の暗黒』、『私は貝になりたい』、『切腹』、『白い巨塔』、『日本のいちばん長い日』、『八甲田山』、『砂の器』の9作品である。どれを取ってみても日本の映画史に残るような名作揃いで、あらためて橋本忍の偉大さがわかろうというものだ。
著者は1ファンではあるが、単にファンが書いた礼賛本とはひと味もふた味も違う。橋本忍自身にも果敢にインタビューを挑んでいるし、そのインタビューもなかなか切り込みが鋭い。

『私は貝になりたい』をビデオで見るたびに、二等兵がBC級戦犯として裁判を受けたことが本当にあったんだろうかと毎回思う。
また『切腹』を見るたびに、この話のネタ元は何なんだろうかと思う。
この間『白い巨塔』を見たときは、今でもこういうドロドロしたことが大学の医学部内であるんだろうか、実話が元になっているんだろうかと思った。
『七人の侍』の脚本担当者として、冒頭のテロップに橋本忍を含む3人が出てくるが、この壮大な話を作り出したのはそのうちの誰だろうかというのは、当初からの疑問だった。

実は、こういったことすべてについて、あるいは調査あるいはインタビューにより、本書で明らかにされている。問題提示の方法とその解決方法がきわめて適切で、切れ味が鋭い(その鋭さは『切腹』の脚本を彷彿とさせるほどだ)。私が今まで抱えていた素朴な疑問が、この本でことごとく氷解した。
橋本忍の脚本のすばらしさを知る人すべてにとっては、まちがいなくお奨めの本だ。もちろん日本映画ファンにも……。

投稿日: 水曜日 - 9 月 28, 2005 06:23 午後          


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