土曜日 - 12 月 31, 2005しみったれ家族 ★★しみったれ家族
平成新貧乏の正体
畸人研究学会著 ミリオン出版 ★★ 毎日新聞の書評で取り上げられていたためつい読んでしまったが、正直言ってこれはおちゃらけ本の類である。元々同人誌だったものを本にしたらしく、なるほど同人誌だったら納得できるよなと思わせる内容である。
昨今の新しい貧困の形態を取り上げており、金銭感覚がなく、深夜コンビニやファミリーレストランに集う家族(タイプ4)や、住宅ローンや教育費で首が回らない、リッチ志向の見栄っ張り家族(タイプ3)について詳細に書かれている。確かにこういう人たちの類型は面白くもあるが、全体に洞察が甘く、歴史認識もステレオタイプだ(こういう本を真剣に論じるのもどうかと思うが)。記述も非常に差別的で傲慢な印象を受ける。 要するに取るに足りない本で、こんな本を年末の忙しいときに最後まで読んでしまった自分が不幸だったってことだ。 金曜日 - 12 月 30, 2005親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと ★★★☆シナリオ作家、山田太一の聞き語りを書き起こした育児論。
聞き語りといっても、テープ起こしした原稿に著者自ら手を入れるという念の入れようで、「聞き語りだから安直だ」とばかりは言えないようだ。むしろ著者の人となりが直に伝わってきて、心持ちがよくなる。それになんと言っても読みやすい。 内容もなかなか斬新で、洞察に富む。たとえば「2、3歳の可愛い時期を一緒に過ごしているんだから、たとえ子供が成長してぐれたりしても、これで元を取ったと思う」など、(子供を育てたことのある)私には目から鱗であった。言っていることは鋭いのだが、表現が丁寧というか、あるいは腰が引けてるのかも知れないが、非常に優しいので、感心することはあってもまったく反発を覚えることがなかった。例を示そうか。 「時には「人生にはなんの意味もないのかもしれない」というような、身も蓋もないような地点に立ち戻って、周囲が押しつけて来る価値観をゆさぶる必要があるのではないか、ということぐらいはいわせて貰ってもいいのではないか、と思います。」 ずいぶん回りくどい言い方だが、全編がこんな感じで、相手に対する気遣いが感じられるのである。 個人的には、著者の子供時代の話が興味深かった。私は、著者について、育ちが良い人だというイメージをずっと持っていたが、実際はかなり苦労しているらしく、それもあまり苦労だとも思っていないフシもあり、著者に対するイメージが劇的に変わった。シナリオ作家、山田太一の作品に、これまで以上に興味がわいた。 金曜日 - 12 月 30, 2005たのしい不便 ★★★大量消費社会へのアンチテーゼとして、多少の不便を生活に取り込むということを実践したある記者による新聞連載をまとめたもの。
たとえば、「自転車で通勤する」、「自動販売機で買わない」、「季節はずれの野菜を食べない」、「電気あんかを湯たんぽにする」などである。試みは面白いし、こういう生活は全面的に賛成だが、何かしら反感を感じてしまう本である。そもそも、これで紹介されている不便の実践例は、私も大体実践しているのであまり目新しくないし(ただしエコロジーの観点からやっているのではなく、もったいないからとか(ケチ?)そっちの方が自然とかその程度のこと。要するに好みの問題である)。それに、やたら理屈ばかり並べられているのも、鬱陶しいと思った理由かも知れない。ちょっと机上の空論を思わせる(実際にはきちんと実践しているので空論とは言えないのだが)。 前半は、新聞連載をまとめたルポで、後半はいろいろな人との対談である。対談は、相手によって面白いものもあるが、そうでないものもある。基本的に、実践家との対談は面白いが、学者をはじめとする理論家との対談は退屈……というか少しうざったい。 通勤を電車から自転車にシフトした著者だが、その後、18歳の少年が運転するバイクに追突され、死線をさまよったらしい(後遺症も残ったという)。結果的に、現在の交通行政(環境行政も含む)の問題を鋭く描き出すことになった(実はこの本で一番迫力があったのはこの箇所 --「あとがき」-- だ。非常に気の毒ではあるが)。自転車によく乗る自分にとってみても人ごととは思えない。気をつけねばと自制するきっかけになった。 水曜日 - 12 月 21, 2005人質 イラク人質事件の虚と実 ★★★☆イラク人質事件の当事者による事件の顛末記。
高遠菜穂子氏の著書と同じような構成で、前半がイラク人質事件の顛末、後半が著者の半生記という形式になっている。ちなみに全編インタビュー形式で読みやすい。 イラク人質事件の顛末については、高遠氏の著書とほぼ一致するが、もちろん個人個人で視点が違いそれが反映されていて面白い。例の人質事件については非常に明快な視点を示しており、世間の幼稚な「自己責任論」に憤っている人は、考えを整理する上で役に立つだろう。当事者の口からはっきり真実を述べてもらい、それをどう解釈しているかを示してもらうのが一番であるが、(特に愚かしいマスコミのせいで)今の日本ではそういうことさえはばかられている。そういう中で、この著書のように、当事者が自らの視点で総括していることは大変貴重である(このあたりは安田純平氏の著書とも共通する)。 後半の、イラクに入るまでの著者の経歴も面白い。経験してきた職業もイラクに入る動機も高遠氏とはまったく違いながら、イラクで拘束されてしまったという接点だけで、3人セットで非難を浴びることになる。ジャーナリストが戦場へ入るのは当然で、それがたまたま拘束された(これにしても、十分な資金がないため入国にタクシーを利用したことが原因)だけで、非難を浴びせることがいかに的はずれか、よーく自分の頭で考えるのがよろしい(> 「自己責任論」の論者)。 特に印象に残ったのが、イラク人が最近まで異常なほど親日的であったという事実だ(これは高遠氏の著書でも繰り返し述べられている)。それが、先の自衛隊派兵で劇的に変わったらしく、そのために日本人ジャーナリストも活動しづらくなったのではないかと訴えている。これまでもイラク国内では米欧に対しては反発があったため、米欧のジャーナリストは米軍側で取材しなければならなかったが、唯一日本人ジャーナリストだけがイラク側で活動できたという。ところが自衛隊派兵で様相が変わり、今では、どこの国のメディアも、イラク側で取材することはできなくなったのではないかと著者は言っている。米軍の一方的な大本営発表ばかりがマスコミを席巻している現在、イラク側の惨状と視点こそが世界に発信されなければならないのに、自衛隊派兵によって、世界の人々はイラクの本当の姿を知る機会を失ったばかりか、イラク人の側もそれを外部に知らしめる手段を失うことになった。 高遠本がイラクの現状をミクロ的に(現地で活動していた人間の目で)描いているのに対して、本書では、ジャーナリストによる戦場への視点が中心になっている。戦場ジャーナリストに関心のある人にもお勧めだ。 火曜日 - 12 月 20, 2005戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない ★★★☆イラク人質事件の当事者による事件の顛末記、そして市民レベルの目で見た戦後イラクの状況。
前半で、ヨルダンからイラクに入国し拘束されて、やがて解放に至るまでの顛末が、詳細に描かれている。このあたりはスリリングで、映画『ミッドナイト・エクスプレス』を彷彿とさせる(この映画は多分に差別的であまり好きではないが)。拘束した側のイラク人とのやりとりも、緊張感はあるが、なかなか面白く、どんどん読み進めることができる。人質になった著者らは、事件当時から心ない誹謗中傷を受け続けているが、その多くがいかにトンチンカンで的はずれか、この本を読めば察しが付くだろう。 後半は、事件以前の著者とイラクとの関わりを時系列で書いている。つまり、後半から読み始めて最初のページに飛べば、時間的につながるようになっている。事件自体が大変話題になったので、事件の顛末を最初に持ってくるという、こういう構成は納得ができる。前半で著者の活動に関心がわけば、後半を読み進めれば良いということになる。後半は、著者がホームページで報告していた内容を集めたものが主で、イラク国内の混乱ぶりがよく伝わってくる。著者を貫いているのは「愛」というキーワードだという。日本で「愛」などと口走れば気恥ずかしいが、戦場となっているイラクでは大きな説得力を伴う。著者の真摯さがよく伝わってくる好著である。 日曜日 - 12 月 11, 2005女職人になる ★★★☆職人といえば、これまでは大概、男の世界であったわけだが、人材不足、男女雇用機会均等などの影響か、最近は女性も進出しているらしい。
この本では、実際に伝統工芸の職人になった女性に話を聞き、それまでのいきさつや生活について聞き書きしている。といってもインタビューではなく、著者がうまくまとめていて、大変読みやすい。実際、これから女職人を目指そうという人も読者として想定されているため、職業として生活が成り立っていくのかなど金銭的な面にも踏み込んでいる。良い本だ。 難点は、写真の配置が本文とシンクロしていない点くらいか(結構読みづらい)。写真自体はなかなか良いので残念と言えば残念。 読んでいくうちに俺もがんばろうと思ってしまう。「元気をもら」える本ということになるのかな……。 木曜日 - 12 月 08, 2005刀狩り -- 武器を封印した民衆 -- ★★★☆日本中世史が専門の著者が、豊臣秀吉の刀狩りについて論じた本。豊臣秀吉の刀狩りについての書、論文は、著者の前著(『豊臣平和令と戦国社会』85年)以外ないというほど、日本では刀狩りの研究は行われていなかったらしい。それにもかかわらず、当然のごとく、豊臣秀吉によって人々が完全に武装解除されたという思いこみが、あらゆる階層の人々に行き渡っている。本書では、それに疑義をていし、本当に秀吉の強権によって刀狩りで農民の武装解除が行われたのかをさまざまなデータを提示することで検討していく。
結論を言えば、秀吉の刀狩りは、公然と帯刀することを禁止するものであって、所持についてはほぼ認められていた。刀狩令の試行についても、実際は村などのコミュニティ任せであり、鉄砲は集めず刀だけを一定本数集めたらしい。しかも、場合によっては持ち主に返却したこともあったようだ。つまり、象徴としての武装解除であり、人を殺傷するために武器を使用することを禁止したもので、平和な世の中になったことを流布させる意味合いが強かったのではないかと言うのだ。また、試行にあたっては、民衆側が自主的に応じた側面があり、紛争解決のために武器を使用することを凍結することに同意し、その結果、平和な時代が徳川の治世まで引き継がれたのではないかという趣旨である。本当の意味で市民が強制的に武器を没収されたのは、敗戦後の占領軍によってであると言う。 話は刀狩りから日本国憲法にまで至る。つまり、民衆側から自発的に武装解除することで平和な世の中を作ってきた日本人が、日本国憲法第9条を大切にするのは至極当然であるとして、現在の風潮に一石を投じている。 非常に意欲的な本で、歴史に新解釈をもたらしながら、それを現代につなげる。歴史学の意味を確認させる名著である。ただし、第1章から第6章までデータが連綿と書きつづられ、少し退屈する(学者だけに論文を意識したのだろう)。プロローグとエピローグが面白いので、後は拾い読みでも良いかも知れない。 水曜日 - 11 月 30, 2005いま、小津安二郎 ★★★小津安二郎について、衣装や道具などの趣味を中心にまとめた本。写真もふんだんで、面白い指摘も多い(特に小津映画では高尚な趣味があふれかえっているので)が、どうも雑誌感覚で、寄せ集めの感をぬぐえない。小学館の雑誌、『サライ』を読んでいるかのような感覚に陥った(もしかして『サライ』の特集の焼き直しか?)。
はじめの方に、原由美子というスタイリストが小津映画と小津自身の衣装を論じているエッセイがあり、「素敵だ」とか「趣味が良い」とか連発しているが、あまりしつこいのでうるさく感じてしまう。「素敵」かどうかは見る方で判断するから、当時の風俗とのかねあいとか、データだけを突きつけてくれと思う。小津が個人的に自身の服装にもこだわっていたことをしつこくしつこく言われると、こちらはしらけてしまう。「そんな細(こま)い野暮な人間だったのかい、オヅヤスは?」と憎まれ口も聞きたくなるところだ。実際のところは同じ服を何着も持っていたような人だったらしいので、服装のセンスをアピールするような野暮な人間ではなかったようだが、この原由美子をはじめとする何人かの書き手のこういった衣装への過剰な執着はその正反対に位置する。つまり野暮! 野暮な人間に小津安二郎を論じてほしくないという気持ちが残った。 逆に面白かったのは、俳優、三上真一郎の聞き書きだ。ただし彼は『巨匠とチンピラ』という本で、小津安二郎について書いているので、もしかしたらこの記事(!)もその焼き直しなのかも知れない(『サライ』はよく焼き直しやるしな……)。良くも悪くも雑誌的な本だ。 土曜日 - 11 月 26, 2005水曜日 - 11 月 16, 2005ご臨終メディア ★★★書いてあること(特にメディアの分析)はなかなか興味深いのだが、いかんせん、対談であるため冗長で論点がはっきりしない(企画自体が安直)。飲み屋でだべっているようなもので、「なかなか盛り上がったなア」などと後で思っても、「はて何を話したっけ?」ってなもんだ。
内容はそれなりにあって、読めば面白いし、なかなか感心する部分もある。読んで損はないが、読み終わって「はて何の話だっけ?」と思う可能性は高い。 ○ オウムの事件は日本の9・11だった。 ○ 阪神大震災、オウムの事件以来、日本のメディア、多くの日本人の方向性が、恐怖をあおる方向へ大きく変わった。 ○ 善意が戦争を生み出し、これが憎悪に変わって大虐殺をひきおこす。 こういったあたりがなかなか感心した部分。 土曜日 - 11 月 12, 2005ジャパッシュ ★★★☆1971年、創刊間もない少年ジャンプで連載されたポリティカルフィクション。
私は、1980年頃、何気なく単行本で1巻だけ読んだが、その後まったく読む機会がなく、その先どうなるかがずっと気になっていた。銀河出版が復刻していたのを最近知って、ついに入手した。25年ぶりの邂逅である。 当初、全3巻の1巻だけ読んでいたのだが、第1巻の部分はとにかく抜群におもしろい。冷酷でシニカルな主人公はすごみがある。で、その後はどうなったかというと、やはりなるようにしかならなかったという感じだ。いかにして権力を握っていくか、そのあたりがどう表現されているかがかなり気になっていたのだが、正直ちょっと拍子抜けした。大風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなったという部分があるのか。ともかく、25年来(私の中で)のどの奥に引っかかっていた部分がやっと判明して、その点は良かった。 主人公の日向光以外にも、その日向をつけねらう石狩五郎など、キャラクター設定がなかなかよくできている。浦沢直樹の『MONSTER』にも似たような部分がかなりあったが、このマンガの影響か。そう言えば、映画の『オーメン』(1976・米)にも同じような場面があったな。 木曜日 - 11 月 10, 2005ワダチ ★★★☆松本零士のSF大作。
日本人全員が65万光年のかなたの大地球に移住するという壮大な話で、松本零士が好きそうな要素が詰まっている。途中まで『男おいどん』のノリで話が進むが、一気にSF化して、最後は西部開拓時代のようなサバイバル話になっていく。主人公、山本轍の楽観性が心地良い。 壮大な話だが、細かい部分はうまいことごまかしていて、なかなかリアリティがある。SFとしても出色のできではないだろうか。この後の、松本SFの原点ともいうべき作品で、佐渡酒造(さどさかぞう)やハーロックなどのキャラクターも出てくる(『宇宙戦艦ヤマト』につながる要素があちこちにある)。松本SFの中では最高傑作と言っても過言ではないだろう。 木曜日 - 11 月 03, 2005ホームレス人生講座 ★★★☆ホームレス暮らし経験者8人の人生をたどって、ホームレスには「縁を失っている」という共通項があることを説く。
ここに出てくるホームレスの人々は、高学歴だったり元会社経営者だったりしてなかなか多彩で、かれらの個人史もなかなかおもしろい。 ここのところホームレス関係の本を何冊か読んだが、それでわかったのは、ただ単に失職したり金がなくなったりしたことが原因でホームレスになるわけではないということだ。失職しても、その人を支える人が周りにいれば、ホームレスになることはあまりない。「縁を失っている」という共通項があることは、何冊か読みながら、私もうすうすではあるが気が付いていた。だから、この本の主張は、ほぼ全面的に共感できる。 著者の結論は、地縁も血縁も希薄になりつつある現在、そしてますますこういった「縁」がなくなっていく将来、社会は今以上にギスギスし、ホームレス予備軍も確実に増えるということだ。確かに地縁も血縁も薄いよな……と、ギスギスしつつある社会を目の当たりにして、妙に納得するのであった。 土曜日 - 10 月 29, 2005医者にウツは治せない ★★☆鬱病を経験したスポーツ・ライターが書いた、鬱病にまつわるあれこれ。
薬漬けの鬱病治療を批判し、自身で実践している鬱病療法(一種の呼吸法だが)を紹介している。もちろん、著者自身や周りの人々の鬱病記もある。薬漬けの鬱病治療の批判やスポーツによる鬱病改善の記述はなかなか興味深いが、途中から少しオカルトが入ったりしてついて行けなくなった。 私は鬱病を経験したことがないのであまり自信を持って言えないが、薬による鬱病治療はあくまでも一時的な対処療法だろうとは思う。どんな病気であっても、根本的に原因を取り除かなければ、完全な治癒は望めない。先日読んだ『マンガお手軽躁うつ病講座』では、著者はまさしく薬漬け状態で、あげくにかなり奇天烈な生活を送っていた。そしてそれを正当化し、経験のない人間にはしょせんわからないだろうという姿勢を貫いていた。確かにそうではあるが、少なくとも、何となくこれはおかしいとかこうすべきではないかとかいうことは誰でも(経験のない人間でも)感じられる。薬を一度に何十個も服用するなんて絶対におかしいと思う。憂鬱を取り除く薬(本来の治療薬だな)、その副作用を抑える薬、さらにその薬の副作用を抑える薬(おいおい)などをまとめて飲む(飲ませる)なんてのは、常軌を逸している。悪い冗談だとしか思えない。 私は、先ほども言ったように鬱病には幸いまだなっていないが、仕事が忙しかったときに体調が悪くなって精神状態も不安定になったことはある。で、それがきっかけでジョギングを始めた。そのときに、身体と精神の状態がなんとなく変わった気がした。身体と精神が調和してきて、状態が好転してきたと感じた(それでいろいろな人に有酸素運動を勧めているのだが)。また、最近肉食を止めたことで、精神状態が非常に安定したことも経験した(こちらはかなり劇的な変化だった)。 だから、確信を持って言うことはもちろんできないが、鬱病の原因を取り除いた上で、定期的に有酸素運動をするようにして、食事の内容を改善すれば、鬱病治療には効果があるんじゃないかと感じていた。この本では、スポーツ(ソフトボールのケースが取り上げられてる)によって鬱病治療を実践し一定の効果を上げている病院が取り上げられているが、この部分を読んでいて「やっぱり」と思ったのはそういういきさつからだ。それで、こういうことが全編を通じて述べられていることを期待して読んだのだが、後半は内容が散漫になり、もう読むのが苦痛になった。 鬱病は、経験者以外なかなか口を出せないところがある(『マンガお手軽躁うつ病講座』でもしつこくそう書いているし)。であるから、スポーツによる鬱病改善を経験的に述べるような本を期待していたわけだ、この本に。論点はなかなか良く、説得力もあるが、通読すべき本ではないと感じた。 木曜日 - 10 月 27, 2005マンガお手軽躁うつ病講座 High&Low ★★☆「躁うつ病でしかも人格がまだ未熟で妻と母親とイラストレーターの3つの仕事をもてあましている」(著者の主治医の印象)著者による、躁鬱病体験記。
精神病院内の様子などなかなか興味深い記述もあるが、「人格が未熟」という印象を強く受けた。著者は「躁うつ病だからしようがない」という言い方をしているが、周りにいたらちょっと迷惑しそうな人だという感じはする。まあ、それだけ自分のことを赤裸々に書いているということだろうが(自分のマイナスになるようなことはなかなか書けないものだしな)。 「人格が未熟」でない普通の人の鬱病記が読みたかった。 月曜日 - 10 月 17, 2005路上の夢 新宿ホームレス物語 ★★★☆新宿西口でホームレスとともに暮らしながらかれらの群像に迫るドキュメント。
ホームレスといっても多様で、なかなかひとくくりでとらえることができない。西口に集まっているホームレスの個人史に迫りながら、過去、現在、将来をあぶり出そうとしており真摯だ。ただ、ホームレスという共通点はあるものの、基本はいろいろな人々の個人史であるため、「ぐんぐん読ませる」というような迫力はない。ともすれば退屈する。 だが、ホームレスが多様だということはよく身にしみた。それに、ホームレス生活が死と隣り合わせであるということ、そしてかれらが(社会的に)大きな孤独を抱えているということも。 日曜日 - 10 月 09, 2005なんじ自身のために泣け ★★★『拒否できない日本』の著者による、第7回蓮如賞受賞作。
「反グローバリゼーションを論じた本」というような紹介がされていて、それで読んだが、この本はまぎれもなく紀行エッセイである。決してそれ以上ではない(この本を読もうという人は「紀行エッセイ」という枠組みで読んだ方がよい)。んなもんで、読みながらかなり退屈した。最近、エッセイ本をよく読んでいるが、正直、エッセイはもうええわと思った。 唯一グローバリゼーションを明快に論じている「エピローグ」が、なかなか興味深かった。 水曜日 - 10 月 05, 2005空から恥が降る ★★★藤原新也のホーム・ページ(http://www.fujiwarashinya.com/)の連載をまとめたもの。タイトルに惹かれて読んでみた。
この本には、他の著作とは少し違った著者が登場する。藤原新也といえば、シャープで物静かなイメージがあったが、本書の藤原新也は、酒を飲みながら世の中のことを嘆いてみせているような、そのへんのオッサンとあまり変わらない(ものの見方はまあ鋭いが)。Webでリラックスしているせいか。前半は「どうもね」というような話が多いが、著者がWebという媒体に馴染んできたためか、中盤あたりからこなれてきてなかなかおもしろくなった。まあ、グチとかボヤキのようなものが多いが。 個人的におもしろいと思ったのは2001.10.15の「メロンの味」(カンダハールで受けた歓待とその後アフガン難民キャンプを訪れたときのことを書いている)と2002.1.17の「プレッツェル終戦」(ブッシュのプレッツェル窒息事件を揶揄したもの)。残念ながら、現在、どちらも氏のホーム・ページでは読むことができない。ホーム・ページには2002年3月までのバックナンバーが掲載されている。それ以前の記事を読みたければ、この本を買えってことか!? 火曜日 - 10 月 04, 2005ホームレスになった ★★★☆東京都労働経済局労政部の役人である著者が、職務上かかわりあうホームレス予備軍について書いた本。
ホームレスになった人々よりも、これからホームレスになりそうな人々が登場する。 著者によると、「経済的に困ったからということですぐさま路上生活をはじめることはない」という。「周囲の誰からの支えも期待できなくなった時は」「路上で生活をはじめるしかなくなってしまう」。「なんらかの理由で家族との信頼関係を失い、友人との友情関係が崩壊した時、つまり人間関係を失ってしまった時には、必ずしも経済的な事情を抱えていなくとも、ただちに路上生活をはじめるための十分な条件となる」らしい。「リストラによる失業や働けない事情を抱えた個人が支えられ、再度、生活を立て直していくためのバックボーン」(家庭や地域のネットワーク)がないために、路上生活を余儀なくされるのが、ホームレスであると分析している。確かに、この本に登場するホームレスの人々は、その分析が当てはまる。また、前に読んだ『ホームレス日記』の記述とも矛盾しない。 ホームレスに不随する社会問題の分析は鋭いが、本全体としては少し散漫な印象がある。ただ散漫ではあるが、文章がうまく具体例が多いので、非常に読みやすい。 また、ホームレスおよびホームレス予備軍に対する著者の視線が優しく、非常に心地良い。 金曜日 - 9 月 30, 2005ホームレス日記「人生すっとんとん」 ★★★上野でホームレスになった元証券マンの聞き書き。
上野のホームレスの多様さがよくわかるが、著者が繰り広げるサラリーマン時代の話はどうにも好きになれない、というかいけすかない。 株で大損して、それがきっかけで離婚し、最終的に上野にたどり着いたらしい。生きる上では謙虚さが必要だということをしきりに説いている。実感なのだろう。確かにサラリーマン時代の著者には謙虚さが感じられない。上野に野宿するようになって絵を売って暮らしはじめ、そこそこの収入を稼いでいたそうだ。その後、ホームレス生活を脱してから、しばらくして心臓発作で死んだらしい。まさに波瀾万丈の人生…… 木曜日 - 9 月 29, 2005棒がいっぽん ★★★★先日の『るきさん』に続いてこれも再読だが、久々に読んでみてビックリ。処女作『絶対安全剃刀』の世界が繰り広げられている。しかもSF(めいたもの)もあり、その奇想天外な発想に驚かされる。すばらしい。
何よりもコマ割りが独特で、映像(画像?)詩という表現がぴったり来る。マンガの可能性を大きく広げるその才能にあらためて敬服する。装丁も大変良い。 本作の後、『黄色い本』(もうひとつだったナー)を経て現在に至ることになる。私が新作を心待ちにしている数少ない作家の1人だが、寡作の作家だけにいつ新作が出るかは皆目見当がつかない。 水曜日 - 9 月 28, 2005脚本家・橋本忍の世界 ★★★☆脚本家・橋本忍の1ファンである著者が、橋本忍の諸作について追ったルポ。
本書で紹介されている作品は、『七人の侍』、『羅生門』、『真昼の暗黒』、『私は貝になりたい』、『切腹』、『白い巨塔』、『日本のいちばん長い日』、『八甲田山』、『砂の器』の9作品である。どれを取ってみても日本の映画史に残るような名作揃いで、あらためて橋本忍の偉大さがわかろうというものだ。 著者は1ファンではあるが、単にファンが書いた礼賛本とはひと味もふた味も違う。橋本忍自身にも果敢にインタビューを挑んでいるし、そのインタビューもなかなか切り込みが鋭い。 『私は貝になりたい』をビデオで見るたびに、二等兵がBC級戦犯として裁判を受けたことが本当にあったんだろうかと毎回思う。 また『切腹』を見るたびに、この話のネタ元は何なんだろうかと思う。 この間『白い巨塔』を見たときは、今でもこういうドロドロしたことが大学の医学部内であるんだろうか、実話が元になっているんだろうかと思った。 『七人の侍』の脚本担当者として、冒頭のテロップに橋本忍を含む3人が出てくるが、この壮大な話を作り出したのはそのうちの誰だろうかというのは、当初からの疑問だった。 実は、こういったことすべてについて、あるいは調査あるいはインタビューにより、本書で明らかにされている。問題提示の方法とその解決方法がきわめて適切で、切れ味が鋭い(その鋭さは『切腹』の脚本を彷彿とさせるほどだ)。私が今まで抱えていた素朴な疑問が、この本でことごとく氷解した。 橋本忍の脚本のすばらしさを知る人すべてにとっては、まちがいなくお奨めの本だ。もちろん日本映画ファンにも……。 水曜日 - 9 月 28, 2005るきさん ★★★久々に読み返してみたが、前に読んだときとあまり印象は変わらなかった。もう10年以上も前の本だが、このご時世に今でも売られているということにビックリ(漫画は息が長いのだな)。
高野文子に対してはかなりの期待があるので、新作が出るたびに買っては、いつもがっかりしている。 出来は悪くないんだが、あの『絶対安全剃刀』のような鋭い切れ味はないな……。とは言え、断じて言う。高野文子は天才的である。 でも、1カ月のうち1週間しか仕事せず、図書館通いを繰り返しているるきさんって、なんだか自分と重なるような……。 水曜日 - 9 月 21, 2005なにも願わない手を合わせる ★★★☆「メメント・モリ」、「東京漂流」でおなじみの写真家、藤原新也のエッセイ集。
不信心な私は、不信心な著者に共感しながらも、オカルトめいた箇所には少し引いてしまった。不信心な藤原新也も、年齢を経て、いよいよ宗教的な境地に達したということか。 内容は面白い。この人の著作は、なんとなく死を感じさせるような、少し乾いた感じがつきまとっているが、死をテーマにした本書は、そういう意味でも実によくマッチしており、摩訶不思議な世界に迷い込んだような面白さもある。 木曜日 - 9 月 15, 2005自殺って言えなかった。 ★★★☆以前ニュース番組で紹介されたときから感心を持っていた。
肉親を自殺で失った子どもたちの手記を集めたもの。 文章は拙い(ゴメンネ)が、その内容は重く響き、珠玉の言葉であふれている。良い本だ。タイトルも良い。 「私たちは、ある日突然、親を亡くして、そこにいるのが当たり前と思っていた存在を失ってしまったわけでしょう。だから私は「当たり前のことが、当たり前にあるほど幸せなことってないんだなぁ」と思うようになったんだ。たとえばご飯をおいしく食べられることも、目覚めたらちゃんと普通に平和な朝が来ていることも、すごく幸せなこと……」 日曜日 - 9 月 11, 2005舞妓の反乱 ★★★☆20年ほど前、祇園の舞妓さんと知り合う機会があり、「水揚げ」(芸妓になるための費用
--4・5千万円--
を負担し、舞妓のスポンサーになること、実際には愛人みたいなもの)の実態を聞いたことがある。いまだにそんなことがまかり通っているのかと驚いたが、この本で告発されている内容はもっとひどい。もちろん「水揚げ」のことも触れられている。以前聞いた話とまったく同じである。著者は、これについては「現代の人身売買」と切り捨てている。
著者たちは、かつて祇園の舞妓として、ある置き屋(「置き屋」とは舞妓が所属するプロダクションみたいなもので、一般的にそこで寝泊まりもする。ただし本書ではどこの置き屋かは特定されていない、残念だが)に所属しており、そこでひどい暴行を受け続けて、結局祇園から脱出(!)したという経歴を持つ、本物の元・祇園の舞妓である。彼女たちが所属していた置き屋は特にひどかったようだが、本書によると、多少差はあっても、どこの置き屋でも舞妓がひどい扱いを受けていることに変わりはないという。 本書を通してさまざまなことが告発されている。その内容は、 「祇園で私たちが体験したのは暴力、強制労働、通信の秘密侵害、盗聴、二十四時間の身体拘束、私物点検・奪取、労働補償としてのご祝儀強奪など、憲法で保障するあらゆる人権への侵害であり、金品奪取の行為です」(234ページ)という一文に凝縮されている。中でも暴力はひどく、髪をつかんで引きずり回したり、冬に裸で正座させたりとか、現代の女工哀史と言っても過言ではない。ちなみに祇園甲部の舞妓さんが通う芸事の学校は女紅場(にょこうば)学園というが、かつて私は、その前を通るたびに、そのゴロから「女工哀史」をイメージしていた。 悪徳置き屋から脱出した彼女たちは、その後、自分たちで「舞妓の館」という企業を始めて、現在に至っている(ようだ)。 「舞妓の館」ホームページ:http://www.maikohan.net/ 金曜日 - 9 月 09, 2005失踪日記 ★★★★これはすごい。
吾妻ひでおと言えば、かつて少年チャンピオンで長期間にわたり連載を持っていたメジャー漫画家である。少年チャンピオンの連載時(「ふたりと5人」、「エイトビート」など)が私の子供時代と一致する。80年代は、ミニコミで書いていたのをちょくちょく見ていたので、そのミニコミ誌の方がメジャーになったのかと勘違いしていたくらいだ(その辺の事情もこの本に書かれている)。 ともかく、そのメジャーな漫画家が、いろいろなことに行き詰まり、89年11月、突然失踪し、ホームレスになった。その後警察に見つかって、いったんは家に戻り仕事にも復帰するが、92年4月、ふたたび突然(家族の視点から言うと)いなくなってしまう。本人はふたたびホームレス生活に戻り、その後、ガスの配管工としてスカウト(!)され、再度、警察に連れ戻される。再度復職するが、今度はアルコール依存症になり、精神病院に入院することになる。 こういう異色の経歴が、表現者である当人によって(マンガという手段で)語られたのがこの本である。その内容たるやすさまじいばかりだが、ギャグマンガの手法でこれを描いているため、かなり笑えるのだな、これが。冒頭に「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」「リアルだと描くの辛いし暗くなるからね」と書かれているが、その意図は十分成功している。内容自体はかなり悲惨なんだが。 全体を通してなんとなく前向き(現在の著者の心境を反映しているのだろう)で、人間生きてりゃ何とかなるなと思わせる。来るべきサバイバル時代に備え、ホームレス教本として読むこともできる。ちなみに続編もある(出る?)ようだ。 日曜日 - 9 月 04, 2005世界の戦場で、バカとさけぶ ★★★2004年イラクで客死した戦場カメラマン、橋田信介の遺稿集。ウベニチ(山口県の地方紙)に連載していた「メコン河の風にのせて」と「ババボボ日記」を再収録したもの。奥方の橋田幸子氏も何本か書いている。
著者の前著に『イラクの中心でバカとさけぶ』があるが、『世界の戦場で……』の方が、橋田氏の人となりがよく出ている。前著はむしろ、小説みたいな趣があり、それが一級のエンターテイメントになっていた。本書は多少趣が異なっており、むしろ文明批評エッセイみたいな要素が強く、個人的にはあまり賛同できない見解が多かった。反感は持たぬが。 本書で一番秀逸なのは、皮肉なことに、橋田幸子氏が書いた「あとがき」だ。単純な思考を持つすべてのババボボ保守主義者にぜひ読んでほしいものだ。 月曜日 - 8 月 29, 2005妻の浮気 男が知らない13の事情 ★★★離婚カウンセラーが、相談に来た浮気妻のことを紹介、というか暴露した本。不倫本ではあるが、亀山早苗の著作のような共感ややさしさは感じられない。また、ああいう強烈なメッセージ性もない。むしろノゾキ趣味に近い。
また、本書で不倫の例として紹介しているクライアントについても、むしろ悪意で紹介していて(まあ確かに奇妙奇天烈な人々が多いが)、印象が悪い。クライアントの秘密をばらして、しかもこういう書き方をして良いものですかねえ。著者の人間性を少し疑ってしまう。まあ楽しめることは楽しめるが、どうにも不快感が残る。 最近不倫本をよく読んでいるが、もともとはこの本を本屋で3分の1ほど立ち読みしたのが始まりである。確かに本書に登場する人々はセンセーショナルでインパクトがあるが、家族や恋愛について考えさせるという点では、やはり亀山本の方がはるかに優れている。 月曜日 - 8 月 22, 2005靖国問題 ★★★★靖国神社周辺のさまざまな問題について、その矛盾を明快に論証していく快著。
靖国神社をとりまく問題を、「感情の問題」、「歴史認識の問題」、「宗教の問題」、「文化の問題」の観点からアプローチしていく。 「戦没者追悼」という皮をかぶり、その実、植民地主義、利己主義、差別主義に彩られている靖国周辺について、認識を新たにすることができる。 ともすれば、難解で退屈になりがちなこのような政治問題を、明快かつ具体的に論じきった筆者の力に敬意を表したい(本職は哲学者らしい)。あまりに面白かったので1日で読んでしまった。 日曜日 - 8 月 21, 2005孤立する妻たち ★★☆孤立する妻たち ”悩める母親”カウンセリングの現場から
武藤清栄監修・著、渋谷英雄、淵上規后子著 宝島社新書 ★★☆ カウンセリングの現場で出会った人々を通じて、現代の家族関係を照射する。
悪くはないが、あまり目新しさや面白さはなかった。 金曜日 - 8 月 19, 2005牛乳には危険がいっぱい? ★★★☆牛乳が身体に悪いということを、いろいろな研究データを引用しながら説く本。
なんでも牛乳は、動脈硬化、白血病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、リューマチ性関節炎、虫歯、反社会的行動の原因になるんだそうだ。恐れ入った。 この著者の主張をどこまで信じるかはさておいて、牛乳が身体に悪いというのはあながち外れていないとは思う。飲まなくても良いものなら飲まない方が良いということだ。少なくとも完全栄養飲料などというキャッチフレーズは信じなくなるだろう。 各章の最後に、その章のまとめがあって、非常にわかりやすくなっている。 日曜日 - 8 月 14, 2005不倫の恋で苦しむ女たち ★★★亀山早苗の不倫シリーズの1冊。
これまで読んだ同じ著者の他の本が、不倫を恋の一形態として描いていたのに対し、この本では、男と女の立場の違いがあるのだろうか、暗黒面を描いている。ダークサイドに陥ったら戻ってこれなくなるような、ともかくとっても暗い。不倫なんてしょせんそんなもんなんだろう。普通に考えりゃね、そりゃそうだろう。まあ自分としては、このシリーズはこの本で打ち止めだな。でも、この著者はなかなか侮れない。うまい書き手だし、どの本も面白く、考えさせられることが多かった。 日曜日 - 8 月 07, 2005「夫とはできない」こと ★★★☆もう不倫本はいいやと思いながらも、また借りてきて読んでしまった。亀山早苗の不倫シリーズ5作目(になるんでしょうか?)。
著者は、「不倫を勧めはしないけれど否定もしない」という立場をすべての著作で貫いており、読者に判断や評価をゆだねている。どのインタビュイーに対しても共感を持って話を聞いているため、話す方もあれやこれやと何でも率直に話している。だから余計、話が面白い。 いろいろ考えさせられ、しかも読みやすい好著である。インタビューで本をまとめるときはこういう風にするんだよってことだ。最後に面白いフレーズを1つ紹介しておく。 「たとえば妻が浮気したとわかったとき、男たちは、女性が夫に浮気されたときと同様、プライドを踏みにじられたような気分になる。女性の場合は、「私というものがありながら」という怒りがわく。ところが、男性の場合は、「オレが男としてダメなんだ」と落ち込む方向にいく。」 日曜日 - 8 月 07, 2005だれが「本」を殺すのか ★★☆だれが「本」を殺すのか
佐野眞一著 プレジデント社 ★★☆ 書店、流通、版元、地方出版、編集者、図書館、書評、電子出版をテーマに、現在の本の周辺を、インタビューを通して探るノンフィクション。
地方出版あたりまでは、そこそこ読めたが、後半は著者の固陋さだけが目についた。 インタビューを最初から最後までずらずらっと並べて、それにコメントを入れてつなげていくという体裁だが、「本は立派なもの、読書はエライもの」という著者の偏見が見え隠れし、著者の考え方と一致しないインタビュイーがいるとこき下ろしている。非常に違和感を感じながら読んだ。それは違うだろと思う。著者が固陋なのは構わないが、少なくとも、この本を通じて、読者に著者の考え方を説得する義務がある。なぜ、そのような考え方を持っておりその考え方がいかに正しいかを伝えるために、インタビューを活用していくのが筋だ。インタビューを並べて、これは正しい、これは間違っているなどというのは、近所のオヤジでもやっていることで、わざわざこんな大層な本(460ページもある)で伝えるようなことではない。第一、インタビュイーに対して大変失礼だ。 そんなわけで、この本は通読する本ではない。適当に面白そうなインタビューを拾い読みするのに適している。雑誌として活用するのが良かろう。 木曜日 - 8 月 04, 2005ネット依存の恐怖 ★★☆児童カウンセラーが取り上げた、子どもたちに見られるネット依存症の現実。
結果的に、「こういう現実がありますよ」という紹介程度で終始しているのが残念だ。最後に処方箋も載っているが、間違っていないのかも知れないがなんとなく眉唾な印象だ。全体を通して分析が甘いからだろう。 子どもの問題としてネット依存を取り上げた点で評価できるが、社会問題としてのネット依存という点では、先発の『インターネット中毒』(1998年刊、本書は2004年刊)の方がはるかに優れているし、読み応えがある。 水曜日 - 8 月 03, 2005まだ、肉を食べているのですか ★★★内容は結構面白いのだが、翻訳がひどすぎる。
訳者の船瀬俊介といえば『買ってはいけない』の著者で、その内容のデタラメぶりはあっちこっちからもひんしゅくを買った。センセーショナルに書き立てるのは良いが、内容がかなりいい加減すぎてね(『買ってはいけない』については、それなりに評価しているが……センセーショナルに書き立てれば、ある程度話題になるからね。あまり興味のない人の耳目にも届くというものだ)。確かに話題にはなったが、各方面からいろいろ批判も出た。 この本の翻訳にも、そういういい加減さやおおざっぱさが散見される(性格なんだな、きっと)。用語は統一されていないし、訳文は行き当たりばったりで、文章も読みにくい。読んでる途中で腹が立ってきた。 第7章「牛の惑星から砂の惑星へ」は、牛の放牧が米国の環境をいかに破壊しているか、そしてそれに米政府がどのように加担しているかについて語っており、目からウロコの米国史だが、同時に、この部分がおそらく一番珍訳が多い箇所なんじゃないかとも思う。読みづらいったらありゃしない。 元の本の内容がなかなか良いだけに、非常に惜しい。 デタラメな翻訳文の例(少し拾っただけでこんなにある。一生懸命探したら、誤訳、珍訳がほとんどのページにあるんじゃないか): ●「彼女は『バベ(Babe)』という映画を何度も見たという。それから豚肉は二度と口にしていない、という。」(16ページ)(「バベ」じゃなくて「ベイブ」じゃないの? この映画を知らなくてもちょっと調べりゃすぐわかるだろうに) ●「今日、この大地は、ステーキを生産している。それは中米の裕福な階層の人々の口に入る。さらに、ハウスメーカーにハンバーガーを輸出している。」(194ページ)(ハウスメーカーにハンバーガーを輸出??) ●「だれが書いたダイエット本であろうと、数百万ドルの利益が懐に転がり込む。内容は肥満者の統計数値に、めだったミスがない程度のシロモノ。」(199ページ)(「統計数値にミスがない」ってどういう意味だ? 原文を見てみたい) ●「エコシステム」→「生態系」(「エコシステム」、「エコ・システム」、「生態系」という用語が混在する。「エコシステム」という日本語はあまりに不親切だ) ●「あなたが体重を減らすために、食事中に含まれる脂肪分を知りたいなら、まず、何があなたにベストで役立つかを見つけなければならない。覚えておいてほしいのは、もし、あなたが正しい種類の食事をしているかぎり、あなたは食事の中の脂肪の割合など知る必要もない。あなたは、自然に適正な範囲にいるからだ。」(218ページ)(意味がわからない。「ベストで役立つ」とは何だ? 「身体に良い」ってことか? それに「あなた」というフレーズがやけに目立つ。中高生の英文和訳みたいだ) 最後の文章を少し直してみた(英文がどんなかは知らない)。意味があっているかどうかはわからない(英文を知らないのでね)が、こちらの方がまだ読みやすいだろう。 「体重を減らしたい、そのために食事に含まれる脂肪分がどの程度か知りたい、というのであれば、そんなことよりもまず第一に、何が身体に良いかということに思いをはせるべきだ。正しい食事をしている限り、食事中の脂肪の割合などまったく知る必要はない。自然な食事であれば、脂肪の割合も適正な範囲になるはずだ。」 水曜日 - 8 月 03, 2005「妻とはできない」こと ★★★☆「夫の不倫で苦しむ妻たち」の作者による「不倫三部作」の続編。
タイトルが非常に良い。妻とはできないこと……か。考えるね。表紙もかなり刺激的(下品なところがちょっと嫌。個人的には)。 家庭がありながら外で恋愛を楽しんでいる男性たちの告白集だが、相変わらず、身勝手な理屈を並べ立てている。嫁に甘えすぎなんじゃないの。これじゃあ大きな子供だよ。 基本的に不倫や浮気に対して嫌悪感もないし本人の自由だと思うが、周りに不幸をまき散らすのはどんなものかと思う(この本に出てくる人たちは、自分が同じことをされたときにどう思うんだろうかね)。 内容は読みやすく、ちょっとポルノめいたところもあってなかなか面白かった。 特に面白いエピソードがあった。ある女性と不倫している既婚の男(塚本さん)が、妻にばれないよう細心の注意を払っていたが、あるとき、 「三月の半ばくらいだったかなあ、新聞に桜の開花予想が出ていて、ふっと『今年は桜が早そうだなあ』と言ったんですよ。そうしたら妻が不審そうなまなざしを投げてきた。『なに?』と聞いたら、『結婚して初めてだわ。あなたが桜の開花予想について話すなんて』と。『そんなことないよ、会社では花見に行くし』とあわてて言ったんです。でも妻というのは鋭いですね。『あなたはいつも桜が咲いたというニュースを聞いたとき、おう、もう咲いたのかって言ってるのよ。開花予想を気にしたことなんてないわ』と。驚くと同時に心臓がばくばくしました。妻をなめたら痛い目にあうぞ、と思いましたね」 その後も(細心の注意を払いながら)女性と不倫を続けていたが、あるとき、女性のマンションから帰ろうとしたら、そのマンションの前に妻が立っていたらしい。恐るべし、塚本さんの奥方。 月曜日 - 8 月 01, 2005もう肉も卵も牛乳もいらない! ★★★★健康、環境、人道(動物保護)、食の安全性などの観点から、完全菜食主義(ヴィーガニズム)を勧める本。
ヴィーガン食に切り替えることで、健康上の問題(コレステロール過多、肥満など)が大幅に改善される。無理な食事制限も不要で毎食腹一杯食べられるという。いわゆるダイエットに伴う苦痛もないらしい。 動物をモノとしてしか扱わない食肉産業の話は、あちこちで見聞きしていたが、この本に出てくるケースはひどい(アメリカでは普通だそうな……たぶん日本でも似たケースは多いと思う)。麻酔をせずに去勢される雄牛や、せまいスペースにおしこめられる母豚(そのために子豚が圧死するケースも多いらしい)、雄だとわかった時点でグラインダーに放り込まれるひよこ……。 その他にも家畜産業による環境悪化、BSEの問題……。これだけ、さまざまな問題を突きつけられると、たしかに菜食主義をひとつのオプションとして考えたくなる。 我々(少なくとも私)が一般的に菜食主義者(ヴェジタリアン)と聞くと、やせ細り宗教がかった人々というイメージを持つが、実際は苦痛が伴うわけでもなく、食べ物の選択肢が変わるだけで、栄養学的にもまったく問題ないそうな。たしかに日本でも江戸時代から獣肉は食べていなかったが、人々は非常に健康的だったそう(日本に来たヨーロッパ人たちが書き残している)で、そうなるとこれまで学生時代に吹き込まれてきた、動物性タンパク質が必須要素だという栄養学の常識はいったい何だったんだとあらためて思ってしまう。 それでもやはり、獣肉なしで大丈夫かなとは思う。だが、訳者あとがきによると、この本の訳者も、この本を訳してからヴィーガンになったらしいが、健康上まったく問題なく、というより以前より健康状態が改善された上、さまざまな持久系スポーツも楽しんでいるという。なんでもカール・ルイスやマルチナ・ナブロチロワもヴェジタリアンらしい。消費エネルギー量が圧倒的に多いはずのトップ・アスリートでも支障がないということか。これはヴィーガン(またはヴェジタリアン)を目指さない手はない。 そういう意味でもヴィーガン(またはヴェジタリアン)入門書として格好の本だ。そして食の問題を考える際の入門書としても最適だ。 日曜日 - 7 月 31, 2005潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影 ★★★Web書籍・CD販売業のアマゾンに、出荷担当(ピッキングという作業)として下働きし、ベールに包まれているアマゾンの秘密を白日の下にさらそうと奮闘したルポ。タイトルでは「潜入」となっているが、どちらかといえば「体験」に近い。
アマゾンは秘密主義を貫いているようだが、Amazon USAのピッキング現場は、テレビでも取り上げられているし、正直なところそれほど目新しくない。「光と影」というタイトルから想像できるように、アマゾンの暗部を照らし出すのが著者の目的のようだが、「下働きが時給900円でストレスの多い作業をさせられている」というだけでは、あまり(告発としての)説得力はないと思うが。ストレスは多いかも知れないが、比較的楽な仕事のようにも思えるし、時給900円ってそんなにひどいかな? 職場が近くならやっても良いなと思ったぞ。 最後の方で山田昌弘著の『希望格差社会』を取り上げて、アマゾンの労働システムと日本社会の弱肉強食化(またはグローバリズム)を結びつけようとしているが、これもどうかと思う(そもそも『希望格差社会』の主張自体が眉唾だ)。今から20年ほど前、私もアルバイターをやっていてあちこちの職場を渡り歩いたが、アマゾンのピッキング現場くらいの条件はいくらでもあった(「オレは機械じゃねえや」と思ったことなんかしょっちゅうだ)し、賃金だってもっと安かったよ。 アマゾンがろくでもない企業で本当にあくどいことをやっているんだったら、今後利用するのをやめようと思っていたが、そういう期待には、残念ながらこの本は応えていない。もっとも、読み物としてはそこそこ楽しめる。あくまでもアマゾン労働体験記としてね。 土曜日 - 7 月 30, 2005アメリカ人が作った『Shall We ダンス?』 ★★★日本でヒットした映画『Shall
We ダンス?』が、『Shall We
Dance?』としてアメリカでリメイクされたが、そのいきさつを、オリジナル版の監督、周防正行が追いかけた『Shall
We
Dance?』顛末記。
日米の映画製作現場の違いなどは、日本の現場を知っている人の記述だけに非常に面白かったが、私自身『Shall We ダンス?』にあまり思い入れがないのでね。どうにもあの予定調和な感じが好きになれないというか、恥ずかしいというか(『シコふんじゃった』もそう。『ファンシィダンス』は抑えが効いてて非常に良かったが)。あの映画が好きな人であれば、この本にもっと感情移入できるだろう。 本書の最後の方で、オリジナル版とリメイク版を比べていろいろコメントしている箇所があるのだが、(著者が)オリジナル版に思い入れがありすぎて(当然だけど)、「そんなに言うほどのもんかよ!」と突っ込みを入れたくなった。反感のようなものはまったくないのだが。 『Shall We ダンス?』が好きな人と、アメリカ(特にハリウッド)がすごいと思っている人向け。 土曜日 - 7 月 30, 2005夫の不倫で苦しむ妻たち ★★★☆面白い恋愛小説はないかと探したがろくなものが見つけらなかったのでこれを読んでみた。が、非常に面白かった、恋愛モノとして読んでみても……。そんじょそこいらの恋愛小説よりはるかに内容が濃く、いろいろなケースが出てくるのでオムニバスのフィクションとして楽しむこともできる(当事者は大変だろうが)。そしていろいろ考えさせられる。
人間は地を這いながら(動物的に)生きているんだなあ、と改めて実感…… 月曜日 - 7 月 25, 2005びんぼう自慢 ★★★古今亭志ん生がその半生を自ら語った聞き語り本。
『びんぼう自慢』というタイトルではあるが、貧乏時代の話はもう一つ迫真性に欠ける。本人が比較的楽観的な上、おもしろおかしくしようという噺家のサガのためか。編者の小島貞二が志ん生に貧乏時代の話を訊いていたら、そばにいた、りん夫人が泣き出したというから、相当なものだったろうと思うが。 貧乏話という点では少し物足りないが、古今亭志ん生の半生記として読めばそれなりに楽しめる。 土曜日 - 7 月 23, 2005あなたがストーカーになる日 ★★★近所のストーカー騒動がきっかけで読んだ。
著者は、ストーカー対策組織を運営しているカウンセラーである。 ストーカー事例のケーススタディを紹介しながら、その解決法なども示している。「ほとんどのストーキングは恋愛のもつれ(被害者が気付いているかどうかは別にして)から始まり、誰でもストーカーになる可能性がある」という視点で書かれていて、単に「ストーカー=悪者」という図式で片づけていないところが良い。 ただ全体的に奥歯に物が挟まったような物言いが多く、読んでいて結構イライラさせられる。 たとえば最初のケーススタディ(全体の5分の2を費やしている)の最後で 「A子(被害者)とB氏(ストーカー氏)は、その後いくつかの驚くような展開があり、地元警察署が大変な問題を引き起こすきっかけをつくってしまったりした。」と書かれているが、その内容については一切説明がない。何だよ、「驚くような展開」って。非常に気になる。こういう箇所が他にもあり、書けないことなら最初から書くなよなどと思ってしまう。 「どういう問題があり、それがどういう原因で発生し、どういう対策で解決したか」という部分はこの手の本では必須だ。あいまいにぼかすのなら、最初から取り上げないで欲しいくらいだ。 日曜日 - 7 月 17, 2005裁判員制度 ★★★☆2009年に裁判員制度が始まることが決まったらしい。要するに市民が裁判員として裁判に参加することになるわけだ。
「なんで今さら?」、「なんで陪審員制度じゃないの?」、「守秘義務違反の懲役って何なんだ!」、「辞退できないのか?」など、いろいろ意見もあるだろう(全部私の所感です)。こういう疑問については、すべて本書に回答がある。 私はその昔、この著者の『陪審裁判を考える』(中公新書)という本を読んで非常に感銘を受けた(と同時に陪審制が導入される日を心待ちにするようになった)が、今回、日本にも裁判員制度が導入されるに当たり、その経緯や問題点などについて表明するというのが、著者の立場のようである。同時にあらためて、最終的には陪審制度を目指すべきであると主張している。 文章も非常に読みやすく、ウィットに富んでおり、比較的わかりやすい。ただそれでも読みづらい箇所はいくつかある。本書が裁判員制度を取り巻くさまざまなことを取り上げようとしているという性質上(法律用語はわかりにくいし)、ある程度は仕方ないのかも知れない。 全般を通して、裁判員制度に関わることになる(あるいは巻き込まれるというべきか)市民からの視点が貫かれており、大変好感が持てる。 第1章で裁判員として参加するある男を主人公にして、ドラマ仕立ての物語を紹介しているが、これが、非常に具体的でわかりやすく、本書の主張のほとんどが盛り込まれている。この章だけを読んでも、本書の趣旨は十分くみ取ることができると思う。 木曜日 - 7 月 14, 2005借金で死なないための20の法則 ★★★☆タイトル通りの内容で、借金で厳しい状況になっても前向きに生きることを進める書。
銀行からの借金で首が回らなくなってしまったら、踏み倒せば良いという趣旨だ。その際の銀行側の対応や、銀行との交渉の方法なども紹介されていて、なかなか新鮮だった。特に、「銀行からサービサー(債権回収会社)へ(踏み倒されそうな)不良債権が二束三文でバルク売りされて、サービサー側はその元手(通常債権額の1〜10%!)を回収すれば満足する(サービサーに債権が売り渡されると銀行に対する借金はサービサーに支払うことになる)」など、まったく知らない事情だったので新鮮だった。要は、債権が信じられないくらい安い額で銀行から売りに出されているということで、そのときに(銀行側で)生じた損益は、税務上適正に処理されるので、銀行が打撃を受けることもあまりないということだ。だから、返せない借金を返すために、高利貸しから借金したり、自殺したりする必要はまったくないというのだ。 確かに銀行からの借金についてはよくわかった。願わくば、町金融のケースにももう一歩踏み込んで欲しかった(町金融の場合は、こう簡単にはいかないんじゃないかと思うが、どうだろう……ちなみに私には---ローン1件以外---借金はありません)。 水曜日 - 7 月 13, 2005ぼくは本屋のおやじさん ★★★☆「サルビアの花」、「NHKに捧げる歌」で有名な元(現?)フォーク(ロック?)歌手、早川義夫の書店エッセイ。
数十年前、歌手をやめて、「座っていればいいのではないか」と思って本屋を始めたそうな。 取次に要望を出している本が届けられずに、不要な本ばかりが届けられる(誤りではなく意図的らしい。書店業の慣例だそうで)など、中に入ってみないとなかなかわからない現実が出てくる。これだけ取次や出版社から嫌がらせされる業種だとは、不勉強ながらまったく知らなかった。エッセイなので基本的にはボヤキであるが、これを読むと書店業はちょっとやりたくないなと思ってしまう。早川氏自体があまり商売に向いていないよう(著者自身何度もそう書いている)で、そのストレスが、読むこちら側にも伝わってくる。ちょっとした疑似体験だ。同じ疑似体験でも、『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』とは正反対である(こちらは、ちょっとやってみても良いかなと思ったが……まったく反対)。嫌な客、嫌な出版社営業担当、問題のある書籍販売システム……これだけいろいろあってよく商売続けてられるなと思うほどだ。 この本の早川氏のイメージと、歌手の頃のイメージとの間に大きなギャップがあるのも面白い。歌手としての早川義夫は、シニカルでウィットに富みはっきりものを言うというようなイメージだったが、この本に出てくる早川氏は、人前に出たがらない物静かで影が薄い人というイメージだ。つげ義春のイメージに近いというか(本書の中でもつげ義春への共感が語られているが)。本書を読み終わった後も、2つのイメージが重ならない。 文章はかなり雑で、この辺は「サルビアの花」と共通する(「サルビアの花」も「あなた」と「君」が並んで出てきたりして相当雑)。むしろ散らかっているという印象。ですます調とである調が並んでいたり(どうも意図的にやっているのとは違うようだ)、話し言葉のように論点がはっきりしなかったりしている。だが、それも「味」に転化されていて、まあ悪くはないなと感じたりもする(この辺ちょっと早川調の言い回し)。 ともかく書店の大変さだけはよくわかった。ちなみにこの本は、『就職しないで生きるには』というシリーズの1冊なんだが、どうも趣旨から大きく外れてしまっているような…… 月曜日 - 7 月 04, 2005桜のいのち庭のこころ ★★★★京都の庭師で、植藤の16代目、佐野藤右衛門の聞き書きエッセイ。
著者の半生、木や造園の話、文明論、自然観などがさりげなく語られる。職人らしい頑固な面も見え隠れするが、自然に対する洞察は鋭い。著者は、人が自然をコントロールしようとするのではなく、自然に寄り添うべきだと説いていて、土に還る自然の素材や、人間の身体だけでできる作業の価値を強調している。まさしくごもっともな意見である。 文明論もなかなか厳しいが、正論でありきわめて痛快である。 イサム・ノグチと一緒に日本庭園を作ったときの話も非常に面白かった。 「(イサム・ノグチが)庭をつくるのにも、とにかく土を山に盛って、それから掘りよるんですわ。山を削って庭にしようというんです。だからふつうの倍近くも時間がかかる。そんな土を山盛りにせんで、こういう庭をするのやとわしに言うてくれたら、そういうようにするというんやけど、「いや」といってわしのいうことを聞かへんのや。そうして山を削っていきよるさけ、「あ、これは彫刻家やな」と思って。考えが違うのやさけ、こっちが折れて、理解していかねばしゃあないしね。」 なかなか印象的な記述である。 土曜日 - 7 月 02, 2005ぼくはオンライン古本屋のおやじさん ★★★オンライン古本屋の先駆ともいうべき杉並北尾堂の、古本屋開店(および繁盛)記。
写真も多く、内容も非常に具体的で、オンライン古本屋を疑似体験できる。 老後の仕事にもってこいみたいなことが書かれていて、それが私の琴線に触れた。それで一層生々しさを感じながら読むことになった。だが、毎月の売り上げは10〜20万円程度で、もうけが5〜10万円というのは、やはり副業でなければきつい。しかもこの人の場合、かなりうまくやっているという印象だ(固定客もついているようだし)。実際に始めてみてこのレベルが達成できるかは、少し疑問。だが、この本を読むと、やってみようかなという気になるのも事実。実際、この本を読んでオンライン古本屋を始めた人もいる(『駆け出しネット古書店日記』の野崎正幸氏)。 なかなか面白い本だが、後半収録されている日記は、前半の古本屋開店記とかなり重なるし、日記という形式も読みづらい。それに少し冗長だ。「杉並北尾堂」のホーム・ページに載せていた日記らしいが、この部分は適当にはしょった方が、本にしまりが出たような気がする。 それからタイトルも少し気恥ずかしい。 追記:文庫にもなっているようだ。それから続編(『へんな本あります -- ぼくはオンライン古本屋のおやじさん2』)も出ている(こちらは未読)。 なお「タイトルが少し気恥ずかしい」と書いたが、その後、早川義夫の著書に『ぼくは本屋のおやじさん』という本があることがわかった。そのため、前のタイトルについてのコメントは撤回したいと思う。自らの不勉強を恥じる次第である。 木曜日 - 6 月 23, 2005刑務所の前 第1集 ★★☆刑務所の前 第1集
花輪和一著 小学館 ★★☆ 『刑務所の中』の続編、というか、刑務所に入る原因になった拳銃の話。時代劇が同時進行し、花輪ワールドが展開していくが、この時代劇が刑務所とどう関係があるのかは不明。
企画が安直>小学館。 水曜日 - 6 月 22, 2005依存したがる人々 ★★★タイトルから、依存症について書かれたフィクション本かと思って読み始めたのだが、どちらかというと、私小説的な告白本だ。ハードカバー版のタイトル、『修羅場のサイコロジー』の方が適切だと思う。
内容の大部分は、薬物依存症患者であった著者の告白である。その体験談はなかなか興味深いが、構成がなんとなく雑誌的で、とりとめがない。 水曜日 - 6 月 22, 2005日曜日 - 6 月 19, 2005インターネット中毒 まじめな警告です ★★★☆インターネット中毒(依存症)というのはわりと新しい概念かと思っていたが、この本は1998年、つまり今から7年前に出された本だった。
「インターネット中毒」という言葉はかなりセンセーショナルであるが、実際に依存してしまうのは、チャットとネットゲームがメインらしい。厳密に言えば、「バーチャルリアリティ依存症」という言葉が適切かと思う。 「インターネット中毒」の問題性は、それまでの生活、つまり仕事上の関係(地位)や家族関係などが崩壊してしまうことだ。チャットを例に取ると、チャットの相手に入れ込んでしまい、家事や仕事をないがしろにするようになる。睡眠時間も削ることで生活パターンも崩壊してしまい、あげくに家族を捨てて家を出るというところまでいってしまう(ケースがある)らしい。こうやって実際にチャット相手(の恋人)と駆け落ちしても、現実の相手は生身の人間であって、チャットを通じて作ったイメージとは当然そぐわないので、その新しい関係も1、2週間で破綻する。結局残ったのは、完全に崩壊した自分の社会性のみということになる。仕事上の関係や家族関係は取り返しがつかないもので、自分にとって一番大事なものだったということにそのとき気付くのである。 著者は、このような破綻までいくケースは絶対に避けなければならず、そのためにインターネットに依存するのではなく、また完全にやめてしまうのではなく(完全にやめると禁断症状が出て逆戻りするケースが多いらしい)、良い関係を築く(つまり節度を持って使えるようになる)ことが大事であると主張する。 依存症関連の本は、症例をいろいろ示すのが通例だが、この本もご多分に漏れず、多数の症例が出てくる。また著者自身の経験も紹介されている。チャットに(プチ)依存したことがあるらしい。だが、この本の素晴らしいところは、単なる症例紹介本にとどまらず、処方箋が詳細かつ具体的に示されている点である。しかも、患者が本人の場合、配偶者の場合、部下の場合、子供の場合など、ケースごとに非常に細かく分類されている。著者は、心理カウンセリング業を営んでおり、しかも自身でインターネット依存の相談を受けるホームページを開設しているらしい。本書執筆の動機も、患者を救済したいという欲求から来ているのではないかと思わせるものがある。大変真摯で好感が持てる。 ネット中毒を早い段階で警告しその処方箋を示した点で、非常に価値のある本だ。 日曜日 - 6 月 19, 2005イチロー262 地元紙が伝えるメジャー新記録への軌跡 ★★☆イチロー262 地元紙が伝えるメジャー新記録への軌跡
シアトルタイムズ記者グループ著、夏目大訳 イースト・プレス ★★☆ 2004年のシアトル・マリナーズについてのシアトルタイムズの記事を寄せ集めたもの。もちろんイチロー関連記事を中心に集めている。
昨年のイチローの軌跡を追うことができ、いろいろ思い出したり改めて感心したり。まあ、スクラップブックを読み返すようなものか……。 土曜日 - 6 月 18, 2005駆け出しネット古書店日記 ★★☆駆け出しネット古書店日記
野崎正幸著 晶文社 ★★☆ タイトル通り、ネット古書店を始めた人の3年分の日記。
日記という体裁であるからしようがないのかも知れないが、無駄な箇所が非常に多い。 この本を手に取る人の多くは、この著者に興味があるのではなく、ネット古書店に興味があるんじゃないだろうか。そうすると、昼カレーを食べたとか、どこそこで誰それと会って話したとか、まったく興味がないわけだ。古書店関連のことだけを厳選して、他の箇所をきれいに削るべきだと思った。タレントのブログじゃないんだから。 この本は「本の雑誌」で取り上げられていて興味がわいたので読んだのだが、この本のもっとも面白い部分が書評で暴露されていた。そういう書評ってどうよ……という気分だ。この本に興味がある人は「本の雑誌」の書評を読めばそれで良しってことか。 水曜日 - 6 月 15, 2005楽の匠 クラシックの仕事人たち ★★☆楽の匠 クラシックの仕事人たち
大山真人著 音楽の友社オン・ブックス ★★☆ クラシック音楽関連の(一般にあまりなじみのない)仕事をしている人々にインタビューして、その仕事をあぶり出すという雑誌(『音楽の友』)連載企画をまとめたもの。
楽器製作者が何人か出てきて、そういう人はまさに「匠」という呼称にふさわしい(登場するチェンバロ作家は、自分のチェンバロを鳴らすためのホールまで作ったというから恐れ入る)が、まったく興味がわかない人(および仕事)もけっこう登場する。気安く「匠」っちゅう言葉を使ってくれるなよ、と思った。『劇的ビフォア・アフター』じゃないんだから。 ちなみに本書に登場する「匠」たちは、(オペラの)字幕製作家、コンサートドレス・コーディネーター、ギター製作者、チェンバロ製作家、チラシ・リーフレット配布業、コレペティトゥア、弦楽器製作家、音響家、舞台衣装家、写譜屋、FM放送局プロデューサー(!)、金管楽器製作者、(オペラの)字幕指揮者。 私の言わんとすることはわかっていただけると思う。 金曜日 - 6 月 10, 2005背中の志ん生 師匠と歩いた二十年 ★★★古今亭圓菊といえば、知る人ぞ知る、やたら面白い噺をする落語家で……まあ、うまい落語家ではないが。
20年以上前、テレビの演芸番組で初めて見たときは、印象がよくなかったが(つまらなかったということ)、その数年後、池袋の演芸場でライブで見たときにひっくり返ってしまった。その後上野鈴本でも数回見たが、やはりエネルギッシュな噺で、会場を虜にしていた。そのとき、帰りしなに会場を睥睨して小さくガッツポーズをしていたのが印象に残っている(満場の拍手の中、そこでまた笑いが起こった)。やはりライブの人だなと改めて思った。 あの古今亭圓菊が、「天才」古今亭志ん生の弟子だと知ったのはその後だ。私の中では両者の噺の共通点はほとんど見いだせないのだが、本書によると、「(圓菊の)噺が師匠に似てきたとよく言われた」らしい。先日、久々に圓菊の噺を聞いたが、ネタは「妾馬」で、これは確かに志ん生の「妾馬」(私が一番好きな志ん生のネタ)にそっくりだったが、残念ながらまったく面白くなかった。 しかし圓菊の噺を聞いていると、なんとなく誠実さが伝わって来る。そこが魅力の1つなんだろう。 圓菊が入門してからしばらくして志ん生が倒れたため、志ん生をおぶってあちこち移動させていたらしく、ほとんど付き人のように世話をしていたという。『背中の志ん生』というタイトルはそこから来ている。一人の弟子から見た裏話集みたいな感じだが、晩年の志ん生の人となりがあますところなく描かれている。著者は圓菊ということになっているが、おそらく聞き書きだと思う。最初から最後まで会話調で、読みやすい。 木曜日 - 6 月 09, 2005刑務所の中 ★★★★映画『刑務所の中』を見ていたのであまり驚きはなかったが、映画で印象的なシーン(持ち物をきちっと揃える、クロスワードで懲罰房など)は、すべて本書に盛り込まれていた。つまり、映画が原作を過不足なく表現できていたということだ。改めて映画の出来の良さに感心した。言うまでもなく、この原作も秀逸だ。
ただ、本書の主人公はひどく楽観的だ。非常に特異な獄中記と見た方がよいかも知れない。『獄窓記』と好対照である。 ちなみに本書はマンガである。 水曜日 - 6 月 08, 2005昭和こども図鑑 ★★★☆戦後すぐの時代に少年期を送った著者による、子供から見た昭和文化史。
昭和20年代から30年代が中心になっているが、30年代後半から40年代に子供時代を送った私も楽しめた……というか懐かしかった。昔のことを思い出した。 ながたはるみの絵が、また味があって大変よろしい。 火曜日 - 6 月 07, 2005虚飾の愛知万博 ★★★現在開催中の愛知万博……「環境万博」を標榜するが、大変な環境破壊万博であった。
その他にも、計画性のない交通アクセス方策、金にものをいわせて無理やり呼び集めた各国パビリオン、内容のない展示物、行き当たりばったりの計画、甘い予測、ずさんな予算計画(愛知県に大変な借金を残すことになるという。「愛・地球博」は「愛知・窮迫」につながるらしい……うまいねどうも)など、さまざまな問題を当初から抱えている。その辺の事情を紹介している。 ただし内容は、多分に週刊誌的で、センセーショナルに書き立ててはいるが底の浅さみたいなものが感じられる。書かれている内容も目新しいことはそれほど多くなく、少々物足りなさは残る。 それから、このシリーズは、日本語の用語にやたら英単語を併記しているが、いったい何のつもりなんだ。読みにくいったらありゃしない。少し腹が立ってきた。 追記: 英単語の併記について、最初の部分に宣言文があった。 「これまでの日本語は世界でも類を見ない「3重表記」(ひらがな、カタカナ、漢字)の言葉でした。この特性を生かして、本書は、英語(あるいは他の外国語)をそのまま取り入れた「4重表記」で書かれています。これは、いわば本後表記の未来形です」ということだ。ちょっと例を示してみよう。 「愛知万博が迷走 aberrance に迷走を重ねた原因は、一にも二にも「環境問題」である。推進派 proponents と反対派 opponents の対立抗争 standoff も、万博の会場が2カ所になってしまったのも、みな「環境問題」が根底 base にある。」 これが「日本語表記の未来形」か……。大きな誤解だと思うが。 月曜日 - 6 月 06, 2005獄窓記 ★★★★秘書給与詐取の罪により懲役1年6カ月の実刑判決を受け、服役した元衆議院議員、山本譲司の獄中記。
先頃ドラマ化されてTBSで放送された『獄窓記』の原作だ。近年には珍しくなかなか良くできたドラマだったため、原作を読みたくなった。で、図書館で借りて読んだ。 ドラマでは、あざとさが鼻につく部分があったが、この原作を読むと、そういった部分がドラマ製作者側の創作であることがわかる。そういう意味でも、出来はこの原作の方が断然良い。 基本的に、入獄してから出獄するまでの出来事や所感を書きつづったという感じで、日記風というかブログ風というか、とにかく読みやすい。序盤で、やたら犯行に対して反省を繰り返しており(「犯行」といっても、議員の間で習慣的に行われていたことで、この人はスケープゴートになっただけだと思うけど)、ちょっと嘘くさい印象を受けるが、読み進んでいくうちに、著者の誠実さというのが段々こちらにも伝わってきて、それほど違和感がなくなった。まあ、誠実な人だから、上告せずに実刑判決を受け入れたんだろうが(上告すればほぼ間違いなく執行猶予がついただろう)。 この本の秀逸なところは、刑務所内の状況が、著者の感じるままにしかも丁寧に描写されている点だ。なにかにつけ怒鳴りつける看守たちに対しても、当初は反感を持っているのだが、徐々に人間対人間として接することができるようになる。それが読む側にもストレートに伝わってきて、ちょっとした刑務所生活疑似体験ができる。花輪和一原作の映画『刑務所の中』でも刑務所の様子が赤裸々に描かれており、「1週間くらいは入っても良いかな」と思わせる部分があった(映画のコピーも同様のものだった)が、『刑務所の中』がやや楽観的でコミカルに描かれていたのに対して、『獄窓記』では、不快な部分も不快感として描いており、刑務所内の問題についても告発している。 文章はとりたててうまいわけではないが、記述が率直で非常に読みやすい。文章からも誠実さが伝わってくる。 最後の方の、辻元清美元衆議院議員とのもめごとはスリリングで非常に緊迫感があった。 土曜日 - 6 月 04, 2005ツチケンモモコラーゲン ★★☆ツチケンモモコラーゲン
さくらももこ×土屋賢二著 集英社 ★★☆ さくらももこと土屋賢二の対談集で、若干のエッセイがオマケにつく。
暇つぶしにはなるが、暇つぶしにしかならない本。 企画が安直だぜい>集英社! 日曜日 - 5 月 29, 2005ツバメのくらし百科 ★★★☆この季節になると、あちこちの軒下でツバメの巣を見かける。
「ツバメは生きた昆虫食で、人が嫌な病原体を運ぶ衛生昆虫や、農作物の有害虫なども食べて駆除してくれる有難い有益鳥として、広い分布域のほとんどの地域で大切に保護されている。ツバメもそういった人の心情を察してか、人に対して気を許し、人間生活の中で最も身近な親しい野鳥となっている。」(「おわりに」より) そのあたりの事情がこちらのDNAにもすり込まれているせいか、ツバメの営巣は見ていてほほえましくなる。 この本では、ツバメの生態から始まって、「燕」という漢字の成り立ちやツバメが登場する文学まで紹介されており、言わば「ツバメ大全」といった趣だ。もっともこういう民俗的なウンチク話はあくまでもオマケ程度で、もっとも充実しているのはやはり生態について書かれた部分である。著者は熊本在住の野鳥ファンで、観察に基づく記述が多く学術的な価値も高いが、何よりも「好きだ」という感情(というより愛情か)がこちらに伝わってくる。この書評で何度も言っているが、「本当に好きな人が好きなモノについて語るのは抜群に面白い」ものである。この本もそういう範疇に入れることができると思う。 金曜日 - 5 月 27, 2005「アフガン零年」虹と少女 監督セディク・バルマクの描いたもの ★★★☆映画『アフガン零年
OSAMA』の製作現場に立ち会ってアフガニスタンの現状を描いたドキュメンタリー、『マリナ 〜アフガニスタン・少女の哀しみを撮る』の書籍版(なのかな? なにしろドキュメンタリーの方を見ていないので、ドキュメンタリーと本書がどの程度かぶっているかはわからない)。ともかく、『アフガン零年』の製作現場がリアルに描かれていて、この映画を理解する上で大いに役に立つ。
『アフガン零年』は、私も非常に感銘を受けた映画で、イタリアン・ネオリアリズモ映画との共通性を感じていたが(「圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ」を参照)、キャストが全員素人などという点でもヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』を彷彿とさせる。戦後の荒廃という状況や、救いようのなさなどもよく似ている。 だが、この「救いようのなさ」は、当初監督のバルマクが想定していたものではなかったということが本書からわかる。シナリオの段階では、未来を感じさせる結末になっていたというのだ。シナリオ段階でのタイトルは「虹」で、アフガニスタンの希望の象徴である「虹」がラストシーンで使われる予定だったらしい。それを変えたのが、主役を演じたマリナ・ゴルバハーリが見せる哀しみや憂いだったという。本書のタイトルの「虹と少女」というのは、そういう状況を象徴している。 市井のレベルで見たアフガニスタンの状況もよくわかる。映画を見ていない人にとっても、十分読む価値のある本だ。 水曜日 - 5 月 25, 2005哲学者かく笑えり ★★★週刊文春の著者の連載を読んでみて面白かったので、図書館で借りてみた。
お茶の水女子大の哲学科の先生が書いたエッセイ集。書き手は明治の文豪みたいに偏屈で、その辺がなかなか場違いな面白さを醸し出しているが、ところどころ笑わせようとしすぎているきらいがあって鼻につく。本書に登場する佐藤氏の奥様の言を借りるとちょっと「くどい」。ちょっと引用してみる。 「こういう生活が重圧を与えないはずがない。わたしの心も身体も限界まで傷みきっている。胃の具合は悪く、食べられるのは肉(できれば上等の肉)だけということがたびたびある。頭痛も慢性化しており、激しい頭痛のために、会議になると決まって居眠りをしてしまう。余命もあとせいぜい五十年くらいなものだろう。」 文章は簡潔で大変読みやすい。ちなみに哲学のことはほとんど出てこないので、哲学論議を期待する向き(そういう人はいないだろうが)はがっかりするだろう。 最後の箇所に先述の佐藤氏(大学の先輩らしい)との往復書簡が紹介されているが、これがまた皮肉と嫌みの応酬(著者も佐藤氏も)で、こんなやりとりをしてこの2人は面白いんだろうかと疑問に感じてしまった。少なくとも私はこんな友達イヤだね。 日曜日 - 5 月 22, 2005森の365日 宮崎学のフクロウ谷日記 ★★★★動物写真家、宮崎学のフクロウ観察日記。
著者は、70年代(だと思う)から長野県伊那谷のフクロウの営巣地近くに小屋を造り、数年間キャンプしながら、フクロウの生態をカメラに収めた。この間、胃潰瘍を起こし(フクロウの撮影作業は神経をすり減らすという)、2カ月間入院している。退院してからも精神的に不調だったらしいが復活し、それからさらに5年を費やして作り上げたのが、写真集『フクロウ』だ。 『フクロウ』を見るとわかるが、密度が非常に濃く、それはこの副読本とも言うべき本書にも反映されている。 本書では、フクロウの生態が微に入り細に入り描かれていて、動物学者が書いたのではないかと疑うほどだ(実際、著者は自然を非常によく観察してから撮影に入るらしい)。 その姿勢は、自然に対峙するのではなく、自然の一部となって生きるというもので、フクロウだけでなく森の中のさまざまな動物のさまざまな行動にも敏感に反応する。感覚はとぎすまされ、やがては他の動物の気配さえわかるようになったという。こちらの気配を感じてじっと様子をうかがっている200m先のキツネにまで、気配で気がつくようになったというから驚く。 自然の一部となり、野生動物の活動を目や耳で感じる。本書では、その様子がありありと描かれている。 動物の生態だけでなく、自然と一体となった目で見た現代文明評も明快で面白い。 リンゴ農家は、有機肥料をまくことが多いが、それを狙ってノネズミやモグラが寄ってくる。ノネズミやモグラはともすれば木の根をかじるので、リンゴ農家に被害が出ることがあるが、フクロウの巣が近くにあるとこのような被害が出ないという。フクロウがネズミなどを餌にしているためで、特に子育て期は、毎晩相当量のネズミを捕獲するという。ところが、農家がしかけたカラス対策ネットに、あやまってフクロウがひっかかって死んだりすると、ノネズミが大発生して、リンゴの木に被害が出るということになる。こういう自然の因果関係がわからないので、結局「ネズミが増えたといっては、有線放送などを通じていっせいに劇薬の独餌をばらま」くことになる。「地球のほんの片すみに住まわせてもらっているということ」を忘れて、「植物や動物たちが発するさまざまなサイン」を見落としているため、こういう天につばすることをしてしまうのだ。 このような文明批評も押しつけがましくなくさらりと書いているのは、日記という性格のゆえか。現代文明の歪みを五感と身体で感じている人の言葉だけに説得力がある。文章も簡潔で非常に読みやすい。写真もカラーで掲載されている。さすがにフクロウの写真は秀逸なものが多いが、それ以外にも撮影セットの配置や撮影小屋内部の様子を示した写真もあって、日記に書かれている様子をリアルに感じ取ることができる。写真に過不足がなく、本文を読みながら写真を眺めると臨場感を味わえる。 この本を読むと、自然の中に溶け込み自然を感じた宮崎学のキャンプ生活を追体験できる。森に入って、自分の感覚器で自然を感じてみたくなった。 参考ホームページ:「宮崎学写真館 森の365日」 土曜日 - 5 月 21, 2005ドイツは苦悩する 日本とあまりにも似通った問題点についての考察 ★★★☆ドイツ在住20年の日本人女性によるドイツの現状報告。
私のドイツ人観は、「何事にあまり贅沢をせず、環境を第一に考え、確固とした生き方の哲学を持っている」という感じか。だが、この本を読んでこのイメージは大きく覆された。 私のイメージを持ち出すまでもなく、日本では、いろいろなところでドイツが美化されている。福祉制度しかり環境対策しかり。しかしその実態は、年金・福祉制度は赤字で破綻寸前であり、環境対策にしても、ペットボトルのリサイクルが徹底されないだのいろいろ問題を抱えているという。 多くの点で「目からうろこ」だったが、作者の考え方には賛同できない部分も多い。だがそれでも、ある国を内部から見て美化しないで率直に紹介している点は高く評価したい。 ともすれば理想郷として紹介されるドイツも、根本的には日本の状況と変わらないということがわかる。結局「この世の楽園」なんてものは、心の中にしか存在しないということだ。 水曜日 - 5 月 18, 2005あの素晴らしい日ペンの美子ちゃんをもう一度 ★★★かつての少年少女向け雑誌でおなじみの「日ペンの美子ちゃん」(ボールペン習字の通信教育の広告)を回顧する、一種の懐かし本。
著者は『磯野家の謎』などを書いた岡崎いずみで、オタッキーなアプローチが得意。この本でも、日ペンの美子ちゃんは4代いるとか、初代美子ちゃんはいろいろな男を手玉に取っていたとか、マニアックなところを存分に発揮している。 だが、登場人物に過剰に感情移入して突っ込みを入れる手法は、読んでてとっても恥ずかしい。作者に突っ込みを入れろよと突っ込みを入れながら読んだのだった。 火曜日 - 5 月 17, 2005オーガニックガーデンブック ★★☆オーガニックガーデンブック
曳地義治、曳地トシ著 築地出版 ★★☆ 化学農薬を使わずに仕事をしている園芸家(植木屋さん)のエッセイ集。
納得がいく話もあるが、どうも庭仕事の大変さが過剰に強調されているようで、あまり好感が持てなかった。商売でやるとなると確かに大変なんだろうが(どんな仕事でもそうだ)。 金曜日 - 5 月 13, 2005農薬いらずの庭づくり ★★★農薬いらずの庭づくり
反農薬東京グループ編著 反農薬東京グループ ★★★ 庭で使う農薬の危険性を訴え、農薬を使わずに庭づくりをしているいくつかの事例を紹介するブックレット。
火曜日 - 5 月 10, 2005内部告発 ソフトバンク・歪んだ経営 ★★☆内部告発 ソフトバンク・歪んだ経営
吉田晃一著 エール出版 ★★☆ 怪しい噂の絶えないソフトバンクを内部告発した本ということでかなり期待したが、何が言いたいんだかよくわからなかった。内部告発という点では高く評価するけどね……。
申し訳ないが、本の体裁が整っておらず、人に読ませられるレベルではない。経理関係のことやM&A関連のことは、もうちょっと具体的に説明しないと、素人には何のことだかわからない。「とにかく問題がある」という主張だけはよく伝わってきたが。 それから、こういう箇所があった。面白かったんでちょっと引用してみる。 「Y氏がいる限りモルガンを二度と使わないと言って北尾氏は、モルガンにY氏の解雇を要求した。九百万ドル(約十億円)のジフ買収アドバイザー料が未収となっていたモルガンは、北尾氏の要求に従い山内を解雇した。」(101〜102ページ) ちなみにこの「山内」はいきなり唐突に出てきていて、「Y=山内」だと容易に推測できる。これだと匿名にしている意味がないんじゃないかと思う。 文章にもう少し磨きをかけて、校正をしっかりやってくれ。 わかったこと:孫正義が「何でもほしがるクレクレタコラ」であるということ。 参考ホームページ:「孫正義 (ソフトバンク(株))社長の暗部をえぐる」 火曜日 - 5 月 10, 2005鷲と鷹 ★★★☆動物写真家、宮崎学が、15年かけて作ったという写真集。
良い写真集だが、宮崎学の猛禽類に対する思い入れはあまり伝わってこない(この点『フクロウ』と異なる)。むしろ、猛禽写真コレクションといった感じ。なんでも日本に生息する16種類の猛禽類をすべて撮影したらしい(プラス1種類--渡り鳥のオオワシ)。なかなかの労作ではある。猛禽類に興味のある人にはたまらないだろう。 土曜日 - 5 月 07, 2005大江戸庶民いろいろ事情 ★★★☆石川英輔の「大江戸事情」シリーズの新作。「大江戸事情」シリーズはどれも高い水準を保っているが、今回の新作もなかなか面白い。ただし、目新しさはなく、これまでの諸作からつまみ食いしたような内容だ。それもそのはず、いろいろな雑誌に書いたエッセイを集めたもの(ずいぶん加筆もしたらしいが)ということ……ガッテンガッテン!(番組が違うか……石川英輔のは木曜日だね)
これまでの諸作のような斬新さはないが、強烈な文明批評と考えて読んでもかなり楽しめる。皮肉は効いているがどれも正論だ。 もっとも「大江戸事情」シリーズを読んだことのない人は、目から鱗が落ちること間違いなしで、総論あるいは「大江戸事情」シリーズへの入門書として読むと良いだろう。 ほんとにハズレがないね、この人は。 金曜日 - 5 月 06, 2005フクロウ ★★★★動物写真家、宮崎学が、胃潰瘍になりながら5年かけて作ったという渾身の写真集。
フクロウの生態を非常に細かく追っている。写真として強烈なインパクトを持っているのは言うまでもないが、巻末に書いている、フクロウの生態についての解説が非常に面白く、わかりやすい。これを読みながら写真を見直すと、またまた新しい発見がある。著者が実際に写真を撮りながら体験したことを追体験できるようになっている。著者の驚きや喜びが伝わってくるようだ。 「渾身」という言葉がぴったり来る写真集で、粗末に扱うことができない本。まさに「フクロウ」学(そういうのがあるかどうか知らないけど)のバイブルというべき本だ。 木曜日 - 4 月 28, 2005草のちから藁の家 ★★★家づくりの素材としての藁、茅をテーマにしたブックレット。
ストローベイルハウス(藁で造った家)、藁材、茅葺き屋根などが取り上げられているが、半分以上はストローベイルハウスに割かれている。 ストローベイルハウスができあがるまでを豊富な写真で紹介していて、ストローベイルハウスに興味がある人にはたまらない。 また茅葺き屋根の現状についての報告があり(「茅葺きの今、そしてこれから」安藤邦廣)、なかなか興味深かった。京都の美山町では茅葺き屋根の跡継ぎが4人育っているらしい。頼もしい限り。 木曜日 - 4 月 21, 2005野鳥を呼ぶ庭づくり ★★★☆在来の樹木を使い、周辺環境の一部として機能するような庭をつくることを提唱する本。
「野鳥を呼ぶ庭」というのは、庭という小さな生態系の中でその頂点に当たる野鳥が来るようであれば、庭の自然が循環していることになるという意味もある。もちろん、著者がバードウォッチャーであるため、野鳥を呼ぶことに主眼が置かれているのは事実であるが。 本書で推奨されている木から5本選んで庭に植え、さらに水場を設けて、薬品などを避け自然のままにしておくというのが、本書の主張である。まず、小さな虫や蛙などを招き寄せることが重要で、小さな庭でもできるという。なかなか興味深い。 とにかくこういう本はその理念に賛同できるかどうかが大きいと思うが、この本はそういう意味で安心して読み進めることができる。人間のエゴを排して動物や昆虫の立場に立つ(そして結局それが人間の利益につながる)という、エコロジカルな方法が推奨されている。 写真や図が少ないのが難点と言えば難点。 参考:『ホームビオトープ入門』(養父志乃夫著、農文協)。本書をいっそう具体的にしたような内容で、お奨め。 水曜日 - 4 月 20, 2005米をつくる 米でつくる ★★☆体裁が高校や中学の授業のようになっている。岩波ジュニア新書を読んだのは初めてだが、他のも全部こんなのなんだろうか。読んでいて少し違和感がある。
内容は、米にまつわるあれやこれやを雑学風にまとめたもので、ウンチク本として読めばそこそこ楽しめる。白玉粉がモチ米から作られた米粉で上新粉がウルチ米から作られた米粉だというのは、この年にして初めて知った。 火曜日 - 4 月 19, 2005青春漂流 ★★★☆立花隆が、異色の分野で仕事をしている若者たちにインタビューしたスコラの一連の連載をまとめたもの。
表紙の若い立花隆を見てもわかるように、20年前に出版された本で、インタビュイー(インタビューされる側)の方は、当時は若者だったが現在では良いオヤジになっている。実は先日、テレビのドキュメンタリー番組で「その後の青春漂流」みたいなものをやっていて、この本に登場している何人かの元・若者が出ており、それで興味を持ってこの本を読んだのだ。つまり、通常の逆パターンで、タイムマシンで過去にさかのぼるような感じで本書を読んだわけだ。 しかしそういうのを抜きにしても、本書に登場する若者たちの話は非常に面白い。生い立ちから学生時代(落ちこぼれだった人が多い)、彷徨時代、今の職に出会う過程、その中から新しいものを見出す過程などが語られる。登場する若者の仕事は、塗師、手づくりナイフ職人、猿まわし調教師、精肉職人、動物カメラマン、鷹匠(!)など多岐に渡り、どの職業もユニークだが、若者たちの経歴も実にユニークだ。かれらのほとんどの仕事は、一般人にはあまりなじみがないので、目新しく楽しい。どの若者も貧しい時代、苦しい時代を過ごし、それを乗り越えて今のポジションを探り当てている(今でも貧しい人もいる)。まさに青春の漂流時代を経て今の場所に流れ着いているわけだ。どの若者も非常に前向きで、元気をもらうことができる。 立花隆の聞き手としての才能がいかんなく発揮されており、良書である。 参考:森安常義(精肉職人)著『牛肉』(肉をさばくための技術を自費出版でまとめた本) 宮崎学(動物カメラマン)著『鷲と鷹』、『フクロウ』(それぞれ15年、5年かけて作った力作写真集だという) 土曜日 - 4 月 16, 2005賢く走るフルマラソン マラソンは「知恵」のスポーツ ★★★ニコニコペース、ルンルンペース(少し恥ずかしい命名だが)のランニングを提唱している田中宏暁・福岡大学教授による、ランニング理論と実践を説いた本。自身の経験に基づく理論(だそうだ)だけに簡単には無視できないが、「ホンマかいな」というのが率直な感想だ。
著者によると、週に数回(それも30分から1時間程度)ゆっくり楽しく走り、体重をある程度落とし、レース前にはカーボローディングして、本番でペースを守って走りさえすれば、フルマラソンでもサブフォー(4時間を切ること)、サブスリー(3時間を切ること)を比較的簡単に達成できるらしい。私はサブフォーを達成するのに3年以上かかっているし、サブスリーなんてまだまだとんでもないと思っている。大体サブスリーで走るためには、1km4分15秒で走らなければならない。たまにこんなスピードで走ってみることがあるが、とてもじゃないがニコニコペースどころではない(<ゼーゼーペース)。40kmもこんなペースで走るなんて無理だと思う(10kmでも大変だ)。ちなみに私は、走り始めてから体重をかなり落としており、しかも週に数回以上ジョギングしているが、まだまだサブスリーは見えてこない。だからこそ、サブスリーがランナーにとっての夢なのだ。正直言って、著者の話は全然信用できないのだが(今度のレースで試してみるつもり)。 土曜日 - 4 月 16, 2005安ければ、それでいいのか!? ★★★食品の価格破壊に関する6人のライターのレポートをまとめた本。ファストフード、牛丼チェーン、輸入野菜、中国の養殖事情などがテーマになっている。
全体的にあまり目新しさはないが、第5章のアメリカの農業事情と、山下惣一が担当した第6章の日本の農業の将来についての記述が興味深かった。食農問題の入門書という位置づけかな。全体を通じて非常に読みやすい。 そうそう、中国産の椎茸に農薬としてホルムアルデヒドが使われているというのは初耳だった。ホルムアルデヒド……シックハウスの原因とされているアレだ。かなりの量が残留しているらしい。食に対する冒涜もここに極まれりという感じだ。 木曜日 - 4 月 07, 2005「懐かしドラマ」が教えてくれる シナリオの書き方 ★★☆「懐かしドラマ」が教えてくれる シナリオの書き方
浅田直亮・仲村みなみ著 彩流社オフサイド・ブックス ★★☆ シナリオ・センターの講師が書いたドラマ・シナリオ・ノウハウ本。
確かにシナリオ入門者に配慮した内容で、シナリオ・ライティングの敷居を低くしているが、「パクリが新しい創造を生み出す」などという表現は到底容認できない。昨今のドラマのレベルの低さ(パクリだらけじゃないか)が反映されているのか。逆にシナリオ教室で教えている人々がこういうことを主張していること自体、ドラマの質の低さにつながっているとも考えられる。 また、「困ったちゃんを設定する」とか「デッドヒートの状況を作って枚数をいくらでも伸ばす」とか、非常に安直なテクニックが語られていて、視聴者をバカにしてるんじゃないかと思わせてくれる(実際そういうドラマが多いんだが)。 この本で唯一ギョッとした記述は、「STEP 1 ”お気楽流”主人公のつくり方」という章の、シナリオを書く上での注意事項である。「公にしてはいけないことを書いて消されないこと 人間、死んだらおしまいです。十分注意してください。」と書かれている。しゃれのつもりか本当のアドバイスか、どういう意図で書いているのかがよくわからないが、このくだりは恐ろしい。元シナリオ・ライター、野沢尚の謎の自殺(?)のこともあり、同業者だけが知っている事実があるのだろうか、いろいろ詮索したくなる。 火曜日 - 3 月 08, 2005介護する人々 「だれか私の話を聞いてください」 ★★★『男が、病院で介護するということ』(新風舎)の著者が、介護に関わる人々に話を聞いたコラムを単行本化したもの。
介護に実際に関わる人々の言葉には重みがあり、その現実に押しつぶされそうだ…… 内容もさることながら、タイトルが秀逸。 月曜日 - 3 月 07, 2005リディアードのランニング・バイブル ★★★名コーチと言われるアーサー・リディアードが、ランナー向けのトレーニングについて解説した本。
具体的で理屈はわかりやすいが、どうもね…… 機会があったら試してみる。 土曜日 - 3 月 05, 2005告発! 検察「裏ガネ作り」 ★★★★検察庁の裏金作りを実名告発しようとして、その当日の朝、検察に突然連行された元高検幹部の獄中手記。
そのあたりの詳細ないきさつを、怒りをまじえて書いている。この本から察する限り(当然だが)逮捕されたときの罪状にはまったく犯罪性がない。まったくの恣意的な口封じとしか考えられず、こういう映画みたいなことが、いまだに行われている(しかも正義を標榜する検察で)ということがまったく信じがたい。少なくとも民主国家を標榜する国では起こりえないことだ。 なぜ、検察の裏金作りを告発するに至ったか(私憤だそうだ)、なぜこのような罪状で逮捕されたか、どういう人間が陰で動いているかなど、非常に詳細かつわかりやすく書かれており、全体像をすぐに把握できる。この手記は拘置所内で書かれたそうで、拘置所に送る側だった人間が、拘置所に入って初めて気づくこと、感じることも率直に書いていて、獄中手記としても興味深く質が高い。 現在進行中の裁判の行方は余談が許さないが、検察の謀略が白日の下にさらされ(多くのマスコミはすでに情報をつかんでいるようだ)、大きなスキャンダルになることはほぼ間違いないだろう。冷静に成り行きを見守りたいと思う。なお、著者は現在出所しており、講演などの活動を続けているが、収入はほとんどないという。 金曜日 - 3 月 04, 2005間取り百年 生活の知恵に学ぶ ★★★日本の近代住宅の間取りの歴史を、その背景とあわせて紹介していく本。
著者は、住宅の安易な方向性や軽薄短小傾向に警鐘を鳴らす人で、安心して読むことができる。挿絵の間取りを見ていくだけでも楽しい。 火曜日 - 3 月 01, 2005知能指数 ★★☆知能指数
佐藤達哉著 講談社現代新書 ★★☆ 知能指数(IQ)が、いかにいい加減なもので、誤った使われ方をしているか、その歴史から説き起こした本。
真摯な本だが、少し退屈。 金曜日 - 2 月 18, 2005水曜日 - 2 月 16, 2005快楽亭ブラック 忘れられたニッポン最高の外人タレント ★★★明治中期に三遊派に属して活動したオーストラリア人の落語家、快楽亭ブラックの伝記ノンフィクション。
本書に登場するガイズバーグの音源(快楽亭ブラックの肉声も含まれる)は、『全集・日本吹込み事始』 および『日本吹込み事始』 というCDで聴くことができる。現在絶版中だが、最寄りの図書館に置かれている可能性がある(図書館はこのテのものを好む)ので興味のある方は探してみると良いだろう。 火曜日 - 2 月 15, 2005僕とカメラの旅物語 〜ノルマンディでコンタックス、な日々〜 ★★★ツール・ド・フランスを追い続けるカメラマンのカメラ・エッセイ。
これまで入手したカメラ(そして手放し「今は無い!」カメラも)を紹介し、それにまつわる特徴や愛着について綴っている。それを使って撮った写真も出てきて非常にわかりやすい上、楽しめる。あるモノの愛好者がそのモノについて語るのを聴くのは本当に楽しいもので、そういう意味でもこの本は面白い。個人的には、私と世代が近いこともあり、「巨人の星・星飛雄馬の大リーグボール3号の気分が味わえる」などという文章が笑える(そして納得!)。 著者がこれまで購入したカメラは数十台に及ぶという。いくら仕事の道具とは言え、そういう消費の仕方はいかがなものか(鈴木宗男風)と疑問を持った(考えてみたら私も同類の消費(というか浪費)をしています。目下反省中!)。 月曜日 - 2 月 07, 2005誰が私を「人質」にしたのか イラク戦争の現場とメディアの虚構 ★★★☆2004年4月にイラクで拘束されたジャーナリスト、安田純平氏の本。拘束に関する弁明やメディア批判などの第1章と、戦時イラク滞在記の2〜5章の2部構成になっている。
著者が民兵に拘束されたときは、イラク人質事件で「自己責任」論が日本中を席巻しており、そのあおりを受けてメディアから「自己責任ではないか」と追求されたりした。見ているこちらは、はなはだ不愉快な気持ちになっていたものだが、当事者自身がその当時の状況をこうして発表することは非常に有意義であると同時に、「自己責任」論がいかに浅薄で自己中心的な議論であったかをあらためて認識させられる。政府が展開する「自己責任」論に追随するメディアも俎上にのせており痛快だ(近年の日本のマスメディアの愚かさ加減にあきれている人にお奨め)。 後半では、イラク戦争中にイラクに入国し、取材活動を行った顛末を綴っている。このあたりは『イラクの中心でバカとさけぶ』と比較すると非常に面白い。『イラクの中心で〜』の橋田氏と著者は、同じ頃にイラクに入っており、同じ状況を体験していたことになる。著者は(結果的に)「人間の盾」のメンバーと行動をともにすることになるが、本書を読むと、ジャーナリストとしての取材対象への接近方法が違うだけということがよくわかる(当時イラクに滞在していたジャーナリストの中にも「人間の盾」のメンバーということで著者を軽蔑する人間がいたらしい)。 当初は滞在地がアメリカの攻撃を受けることにおののいていた著者と「人間の盾」のメンバー(中には反戦運動家もいるのだが)は、やがて砲火や戦闘機の飛来を、花火でも見るかのように楽しむようになる。これはイラク在住の人々も同じようだ。人間の適応能力ということだろうか。 著者は、頻繁に町中に出ている(そのために何度も当局から拘束されるのだが)ため、イラクの人々の様子も、かれらに近い視点から描かれており、戦時下のイラク住民の有様が手に取るようにわかる。 イラク戦争のミクロ的な視点と言う意味でも有意義な本だ。 土曜日 - 2 月 05, 2005香港への道 中川信夫からブルース・リーへ ★★★映画カメラマン、西本正のインタビュー録。
香港映画の礎を築いたと言っても過言ではない西本正の日本や香港での仕事や、ブルース・リーとの邂逅などが語られる。 金曜日 - 2 月 04, 2005中年オトコの介護奮闘記 アルツハイマーのお袋との800日 ★★★☆ウェブで連載されている日記をもとにして刊行された本。
もともと日記であるだけに、内容は赤裸々で重いが、同時に(当事者には申し訳ないが)かなり笑える。まさに泣き笑いの日々だ。 母がアルツハイマー病を病み、人格を変化させていく。「オレ」は、それに狼狽し、とまどい、つらく当たってしまう自分に自己嫌悪しながらも、以前にもまして母に対する愛情を募らせていく。 かつては「凛とし」気丈だった母(そのため著者とも何度も衝突があったらしい)が、著者の娘であるかのような姿に変貌していく。その関係性が変貌していく過程が、ときにユーモラスに描かれていく。また、著者自身が自分の人生を犠牲にされているのではないかと思い悩む姿も率直で心に響く。そこには「アンビバレントな」日常がある。 今後、アルツハイマー病の患者は確実に増加していく。老いた肉親を持つ人々は、この本で、来るべき修羅場を疑似体験することもできる。そういう意味で、若者、老人を問わず、すべての人にとって必読の書と言える。 ちなみに、気丈な母の姿は、前著『男が、病院で介護するということ』に登場する。あらためてアルツハイマー病の怖さを見せつけられる。 土曜日 - 1 月 29, 2005自然農法 福岡正信の世界 ★★★自然農法の祖、福岡正信のDVD(!)。
福岡氏の自然農園や自然農法の具体的な方法の紹介などがあると思って買ったが、そういう意味では期待はずれだった。ほとんどが福岡氏のインタビューで、DVDにする意味があるのか!と突っ込みを入れたくなった。ただし、語られる内容は、興味深い。齢91歳を迎えた福岡氏は、ますます仙人然としてきて、生ける老子を地でいっている。このDVDは、いわば『無<I>』、『無<II>』に相当するもので、福岡氏の哲学が語られる。 『無<III>』や『<自然>を生きる』(お奨め!)のような、もっと具体性のあるものをDVDで出してほしいところだ。 日曜日 - 1 月 23, 2005ギャンブル依存とたたかう ★★★★パチンコなどのギャンブルにはまり多額の債務や家族崩壊を招く人々のことを、ギャンブル依存症という病気であると断定する。そのため、家族や親戚で追求したり「もう二度としない」という誓約書を書かせたりする(一般によく行われるらしい)だけでは治らない。アルコール依存症と同じような方法で治療し、再び悪循環にはまらないよう本人が管理しなければ絶対に改善されない、ということを終始一貫して述べている。症例もわずかではあるが紹介されており、非常にわかりやすい。また、治療の方法も具体的に紹介されている。
一方で、精神科医の立場から、ギャンブルは行政の手で厳正に管理されなければならないと説く。特に、依存度が高い(あきらかに)ギャンブルであるパチンコが、ギャンブルでないものとして野放しになっている現状について告発する。現場の立場で書かれた好著である。 こういう本が読みたかった。先に紹介した『ギャンブルフィーヴァー』 とは好対照の内容だ。 木曜日 - 1 月 20, 2005年金の悲劇 老後の安心はなぜ消えたか ★★★年金問題についてセンセーショナルに書いた本。
まあ確かに今の年金問題はセンセーショナルではあるが……。 年金を食い物にする年金官僚や役人をボロクソに書き、一方で「一部の心ある年金官僚」などの表現が多出する。すべてをこうやって善悪で論じるのもどうかな……。まあ確かに内部告発をするような「心ある」役人もいるだろうが……。 なんだか週刊誌の記事みたいに大げさにあおっているなとも感じた。まあ確かに週刊誌(「週刊現代」)の連載が元になっているのだが(「おわりに」から判明。やっぱり)……。 もちろん問題を多くの人に知らしめるために、声を大にしてヒステリックに叫ぶような言論も必要だと思う。だがもう一つ釈然としないものが残る……。 木曜日 - 1 月 13, 2005唖蝉坊流生記 ★★★☆
演歌師、添田唖蝉坊の半生記。
明治から昭和に至る演歌(演説歌)の事情もよくわかるが、何より市井から見た日本の現代史として読むと面白い。(唖蝉坊自身が経験している)関東大震災の描写もリアルだ。 この国の人々は、時代を経てもほとんど変わっていないことにあらためて驚く。 『石田は「英語会話速達法」というのを考えてやりはじめた男である。つまり教室の英語は学問ではあるが実際的ではない。ためしに偉人と話してごらんなさい、なかなか通じはしない、と教室英語と実際英語との違いを挙げて、会話には会話のコツがある。これさえあればぺらぺらと喋れる、たちまち通じるようになる、と言って、小冊子を売るのである。またよく売れたものである。』 これは明治40年代の話だ。今でもこういう商売あるよね。 火曜日 - 1 月 11, 2005ミミズのいる地球 大陸移動の生き証人 ★★ミミズのいる地球
大陸移動の生き証人
中村方子著 中公新書 ★★ 内容が散漫で読みづらい。情報量はあるのだが、いかんせんまとまりがない。
後半は生物学者による旅行記といった趣。純粋にエッセイとして読んだら楽しめるかも。 土曜日 - 1 月 08, 2005戦場カメラマンが書いた イラクの中心でバカとさけぶ ★★★☆
2004年イラクで客死した戦場カメラマン、橋田信介のイラク戦争レポート。
タイトルから伺われるように、その体験を茶化しながら面白おかしく書いている。文章が滅法うまいので、どんどん読み進むことができる。臨場感あふれる迫真のレポートだ。 冒頭に宮島茂樹(本文でも登場)、勝谷誠彦との対談があるが、この2人、利己主義丸出しで良い感じがしない。 金曜日 - 1 月 07, 2005日本フォーク私的大全 ★★★☆フォーク界の生き証人、なぎら健壱が語る日本フォーク史。なぎら健壱を含む16人のフォーク歌手にスポットを当てることで、フォーク史をつづっている。
特に(ただのマラソンおじさんと思っていた)高石ともやが日本フォーク界で大きな役割を果たしていたという事実に驚きを禁じ得なかった。なぎらの語る友川かずきや高田渡も大変魅力的だ。以前読んだ友川かずきのエッセイでは、無骨でわがままな人間を連想したが、なぎらの友川像からは人間味が感じられて好感が持てる(自著だと構えてしまうのだろう)。 金曜日 - 1 月 07, 2005 |