人質 イラク人質事件の虚と実 ★★★☆


人質 イラク人質事件の虚と実
郡山総一郎、吉岡逸夫著
ポプラ社
★★★☆

イラク人質事件の当事者による事件の顛末記。
高遠菜穂子氏の著書と同じような構成で、前半がイラク人質事件の顛末、後半が著者の半生記という形式になっている。ちなみに全編インタビュー形式で読みやすい。
イラク人質事件の顛末については、高遠氏の著書とほぼ一致するが、もちろん個人個人で視点が違いそれが反映されていて面白い。例の人質事件については非常に明快な視点を示しており、世間の幼稚な「自己責任論」に憤っている人は、考えを整理する上で役に立つだろう。当事者の口からはっきり真実を述べてもらい、それをどう解釈しているかを示してもらうのが一番であるが、(特に愚かしいマスコミのせいで)今の日本ではそういうことさえはばかられている。そういう中で、この著書のように、当事者が自らの視点で総括していることは大変貴重である(このあたりは安田純平氏の著書とも共通する)。
後半の、イラクに入るまでの著者の経歴も面白い。経験してきた職業もイラクに入る動機も高遠氏とはまったく違いながら、イラクで拘束されてしまったという接点だけで、3人セットで非難を浴びることになる。ジャーナリストが戦場へ入るのは当然で、それがたまたま拘束された(これにしても、十分な資金がないため入国にタクシーを利用したことが原因)だけで、非難を浴びせることがいかに的はずれか、よーく自分の頭で考えるのがよろしい(> 「自己責任論」の論者)。
特に印象に残ったのが、イラク人が最近まで異常なほど親日的であったという事実だ(これは高遠氏の著書でも繰り返し述べられている)。それが、先の自衛隊派兵で劇的に変わったらしく、そのために日本人ジャーナリストも活動しづらくなったのではないかと訴えている。これまでもイラク国内では米欧に対しては反発があったため、米欧のジャーナリストは米軍側で取材しなければならなかったが、唯一日本人ジャーナリストだけがイラク側で活動できたという。ところが自衛隊派兵で様相が変わり、今では、どこの国のメディアも、イラク側で取材することはできなくなったのではないかと著者は言っている。米軍の一方的な大本営発表ばかりがマスコミを席巻している現在、イラク側の惨状と視点こそが世界に発信されなければならないのに、自衛隊派兵によって、世界の人々はイラクの本当の姿を知る機会を失ったばかりか、イラク人の側もそれを外部に知らしめる手段を失うことになった。
高遠本がイラクの現状をミクロ的に(現地で活動していた人間の目で)描いているのに対して、本書では、ジャーナリストによる戦場への視点が中心になっている。戦場ジャーナリストに関心のある人にもお勧めだ。

投稿日: 水曜日 - 12 月 21, 2005 09:53 午前          


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