浮草 ★★★★☆


浮草(1959年・大映)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:宮川一夫
出演:中村雁治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、野添ひとみ、笠智衆、高橋トヨ
★★★★☆

松竹の監督、小津安二郎が大映で撮った異色の映画。見るのはこれで三度目だ。実は1934年に自身で撮った『浮草物語』のリメイクである。だが、できは断然こちらの方がよい(と思う)。
なにしろ、役者陣が素晴らしい。それに宮川一夫のカメラワーク! 常に小津とコンビを組んでいる厚田雄春ではないので、いつもと違う雰囲気も若干あるかも知れない。そのためかキネマ旬報のベストテンでは、『浮草物語』が1位であったにもかかわらず、こちらは10位以内にも入っていない。しかし、この映画が、小津安二郎の最高傑作の1つであることは疑いのないところだ。
構図も非常におもしろい。最初のありきたりの数カットでさりげなくウィットを見せるあたり、なかなかうならせる(同時に笑えるが)。
他の小津映画にまず出ることがない大映の俳優陣、京マチ子、若尾文子、川口浩も新鮮だ。この時代の有名監督は、どうしてこうも役者を美しく撮れるのか不思議なくらいだ。豊田四郎の『甘い汗』を見たとき、京マチ子と佐田啓二が並んで歩く後ろ姿にほれぼれとしたが、そういう立ち居の美しさは、この映画でもさりげなく表現されている。
映像については、他の小津映画以上に感性的な映像表現が多いように思う。押しつけがましさがなく心地良い。
雨のシーンは大変インパクトがあり、最初に見たときから忘れることができない。忘れられない台詞も結構ある。シナリオも洗練を極めている。心地良さが後々まで残る、何度も見たい映画である。

投稿日: 金曜日 - 10 月 21, 2005 08:20 午後          


©