小早川家の秋 ★★★★


小早川家の秋(1961年・東宝)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:中井朝一
出演:中村雁治郎、原節子、司葉子、新珠三千代、小林桂樹、森繁久彌、浪花千栄子、団令子、加東大介、山茶花究、宝田明、藤木悠、杉村春子、笠智衆
★★★★

松竹の監督、小津安二郎が東宝で撮った映画。
見るのはこれで二度目で、前回はあまり好印象を持たなかったが、今回は絵の美しさに感心した。きれいな映像というだけではなく、日本の風物、景観が良く表現されていて、懐かしさがこみ上げる。さりげなく撮ったような京都の町並みもはなはだ美しい。今でも京都の花見小路あたりにわりと残っているような風景だが、ここに写っている絵は印象が全然違う。
それに、登場人物の立ち居のすばらしさ。立ち居については前の『浮草』のところでも書いたが、この映画では単に立ち居が美しいというだけでなく、登場人物のキャラクターにあわせた立ち居が表現されているように感じた。この辺の表現は、ちょっと歌舞伎を彷彿とさせる。そんなわけで歌舞伎役者の中村雁治郎が抜群に良い味を出している。小津の映画で彼が出るのは『浮草』とこれだけだが、大映の役者を東宝まで引っ張ってくるという小津の思い入れがよくわかるというものだ。ひょうひょうとしたおかしみが出ていて、コロコロ変わるえびす顔や怒り顔などの表情の変化も楽しい。
演出も、他の小津映画以上に様式的である。原節子と司葉子が並んで話をするシーン(いくつかある)なんて、やり過ぎじゃないかと思うくらいだ。この辺も歌舞伎的である。東宝でちょっと実験してみたという感じなのだろうか。
全編に渡り、登場人物たち(大人)の魅力や懐かしい風景があふれていて、見ている側が子供に帰り大人たちの挙動を目の当たりにしているかのような錯覚さえ覚える。小津映画のローアングルのカメラ目線が子供の視線を表現しているなどと言われることがあるが、この映画ほど、それを感じたことは今までなかった。

投稿日: 土曜日 - 11 月 05, 2005 09:22 午前          


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