明快な本



先日『靖国問題』という本を読んだが、靖国神社関係の問題をあまりに明快に解説していたので感心した。
靖国神社肯定派の意見は、感情的に語られるだけで正直うんざりするし、まったくもって説得力に欠けている。反対派も問題点を明確に指摘することがあまりなく、要するにこちらも感情的に語ってしまう。感情と感情がぶつかり合えば、何の結論も出ないのは火を見るより明らかだ。この本では、肯定派の主張を批判しながら、その理由を明快に述べ、どこに問題があるか整理し、最終的に一定の考え方を提示している。非常によくまとまっており、書物として優れている。
あるものごとに対して、標準となる見方を提示する(横文字を使うのは嫌だけど強いて言うなら「スタンダードなパースペクティブを与える」ということになるか)本というのは、希少であるが、非常に価値が高い。特に感情だけで語られることが多い政治問題などの場合はなおさらである。
同じように政治問題に一定のパースペクティブを与える本として、『年金不安50問50答』がある。1問1答形式で年金問題を整理し、最後に著者の考える年金モデルを提示している。ややこしい年金問題に対して一定の見方と方向性を与えてくれる良書だ。
最近読んだ亀山早苗の不倫本も、明快なパースペクティブを与えてくれる。著者は、不倫に対して「不倫を勧めはしないけれど否定もしない」という立場を貫いているが、「当事者は事故にあったようなもの」であるため「当事者の配偶者は絶対に自分を責めてはいけない」ということを繰り返し主張している。この間、図書館で『今週妻が浮気します』という本をとばし読みしたのだが、結果的に亀山早苗が提示したパースペクティブの正しさが証明されているような内容だった。この本は、OKWeb(相談サイト)の書き込みをそのまま本にしたもので、妻の浮気に気付いた夫がどうしたらいいか意見を衆目に求めるところから話が始まる。それに対して、他の人々がいろいろ意見を述べていき、同時進行で妻と対峙していくのだ。他人の意見なんて勝手なもので、「(この当事者の)妻は心の中で夫のことをバカにしているからすぐに別れろ」とか「多大な慰謝料を請求しろ」とか、まあ好き勝手なことを言ってるヤツがいるんだ、結構(中には非常に素晴らしい意見もあります)。で、私は、亀山早苗パースペクティブの影響を受けているから、「夫と妻の間に誤解があって、妻が何か夫に対して不信感を持っている。決して離婚を望んでいるわけではないから、その点をつつがなく話し合って、それで元のサヤに戻れるものなら戻った方が良いんではないか」とこう考えながら読み進めていったわけだ。結果的にどうなったかここでは書かないけど、やはり、この見方は大筋で間違っていなかったということがわかる。そりゃ、人によっては離婚を望んで破滅的な気持ちで不倫する人もいるだろうが、何か問題を抱えていてそれが引き金になっている場合が多いということを、亀山本で学習したわけだ、私は。ちなみに『今週妻が浮気します』の内容はOKWebで読むことができます(こちら)。
何にしろ、明確な見方を提示してくれる本というのは素晴らしい。それ1冊読むだけで、ものごとの問題点を理解した上で、標準となる見方を獲得できるんだから。もちろんどの情報を取捨選択するかは読者の責任だ。その見方が信頼に値するかどうかは、読む方が判断しなければならない。同様の「パースペクティブ」本として、他にも『邪馬台国はなかった』『サーロインステーキ症候群』『大江戸エネルギー事情』などを、(個人的に)お奨めしたい。そしてどの本にも共通することであるが、提示される結論は意外に単純である。もちろん、こういった本を読んでも、ものごとの見方は固定すべきではないが、自分の中に基準を作ることができれば世界は確実に広がると思う。どうですか?

投稿日: 火曜日 - 8 月 23, 2005 06:53 午後          


©