新『赤い運命』の島崎直子役の女優
どうにも昨今のテレビ・ドラマの企画力の貧困さは目を覆うばかりで、「藁をもつかむ」というわけでもないのだろうが、リバイバルに手を出すケースが増えている。
過去のヒット・ドラマを別のキャストでやり直して、あわよくば夢よもう一度という発想なんだろうが、安直な企画もついにここに極まれりという印象をぬぐえない。
それでも、一昨年だったかフジテレビでやった『東京物語』と『秋刀魚の味』は、個人的には非常に評価している。ご存じのように元々は小津安二郎が1950〜60年代に作った映画が元になっているが、これを現在の環境に置き換えてやってしまおうという企画だ。しかも、例の小津調は、ドラマの中にほどよく残されていて、小津ファンが見てもあまり腹立たしくなるようなものではなかった。非常に構成が良くできていて感心した。意外だったのは、笠智衆がそれぞれでやった役柄を宇津井健が演じていたことで、宇津井健もそんなにジイサンになったかと時代を感じたものだ。
だが、『秋刀魚の味』で、太平洋戦争を万博に置き換えていたのは、ちょっと苦しかった。本物の戦争を経済戦争にしたあたりは、確かに苦心の跡はかいま見られるが、良くなかった。全体的に出来が良かったので、そのあたりが残念であった。ただ、「こんなドラマ誰が見るんだ?」という疑問は、最後まで残った。小津のシンパであれば、オリジナルの映画を見た方が良いわけだし、小津に感心のない一般人からすると、こんな、起伏も大してないドラマを見る気になるものなのか少し気になった。面白い試みではあるが、あまり意味を感じない試みだというのが私の感想である。
で、安直さを地でいくリバイバル企画が、昨年TBSで放送された、赤いシリーズの再ドラマ化である。かつて山口百恵主演で大ヒットをとばした『赤い疑惑』と『赤い運命』を現代風のアレンジでやり直すというものだが、なんといっても当時爆発的な人気を誇って、独特の雰囲気を持っていた山口百恵の演じた役を今の女優がやるわけで、酷といえば酷な役回りである。
実は、一昨年、CSで『赤い疑惑』と『赤い運命』が再放送されており、そのとき懐かしさもあって何本か見たのだ。ストーリーや演出は、今見るといかにも大映ドラマ的で気恥ずかしいが、山口百恵と三浦友和の演技はある程度抑えがきいていて、なかなか存在感があり、かつての人気もうなずけるというものだった。宇津井健はあいかわらず怪優ぶりを発揮していたが。『赤い運命』が放送されたとき私は中学生だったが、あのドラマで三国連太郎が演じているシマザキという男が結構アナーキーなやつで、私は子供心に恐怖心を覚えた。三国連太郎自体が、ああいった恐ろしい人間かと勘違いしていたほどで、先日見た折も彼の名演技には感心させられた。
で、新『赤い』シリーズの山口百恵の役である。新『赤い疑惑』についてはあまり一生懸命見なかったのでよく憶えておらず、山口百恵のやった役をやらされるのはちょっと酷だよなという感想を持ったくらいでほとんど印象に残っていないが、新『赤い運命』の方は、旧『赤い運命』の、山口百恵演ずる「島崎直子」のあの陰りやけなげさがうまく再現されており、「誰、この女優?」という感じで、ちょっと見入ってしまった。この役を演じたのが綾瀬はるかという人で、私はまったく知らなかったが、すでにドラマや映画にも結構出ていて、写真集なども出しているらしい。ちょっと写真集のカットを何枚か見てみたが、ケバネーチャンという感じで、島崎直子役と全然印象が違う。ということは、綾瀬はるかはこのドラマで新境地を開いたということなのだろうか、山口百恵と同じように。現在、綾瀬はるかは、TBSの『白夜行』というドラマに出ているが、こちらも少し陰りのある役で、こういう感じで押していけば、面白い存在になるかもしれないという期待感を持たせる。先日は、News23に出て、朗読なども披露していたが、声がくぐもっているにもかかわらずなかなか良い雰囲気があって、やっぱり女優は雰囲気だよなと感じた。今後に期待できる数少ない女優の1人である。ただしドラマ『白夜行』は、どうにも暗くていけない。演出も昨今の日本映画風(ジェイホラーとでもいうんでしょうか?)で、テンポも悪く、あまり見る気がしない。見所は綾瀬はるかだけかな……と感じた。
投稿日: 金曜日 - 1 月 20, 2006 05:57 午後