喫茶店と秋風と栗田ひろみ
久しぶりに行きつけの喫茶店に行った。
私は、喫茶店や飲み屋の主人と話し込むことなど人生の中でほとんどなく、したがって行きつけの飲食店もこれまでほとんどなかった。であるから、この喫茶店は私にとってかなり特殊だ。
でまあ、今日は石川セリの話などしていたのだ。石川セリは井上陽水のヨメだなどと私が言っていると、マスター氏は、「へえ」などと言いながら「陽水は確かアイドルと結婚してましたねえ」と言う。
私が「石川セリのこと?」と聞くと、「いや、石川セリと結婚する前で、もっとアイドルです」とおっしゃる。「確かクリタなんとかとか……」
アイドルで「クリタ」といえば栗田ひろみしかいない。「栗田ひろみですか?」と聞いたら、「よく憶えていませんが、アイドルです」
栗田ひろみと井上陽水が夫婦だったというのはまったく初耳で、でもまんざら間違いでもなさそうな組み合わせではある。
で早速、ネットで調べてみると、やはり事実のようで、なんでも栗田ひろみの主演映画『放課後』のテーマソングが陽水の「夢の中へ」だったそうで、なるほどそういうつながりかと納得した。
世代的なものもあるのだろうが、栗田ひろみの名前と顔はすぐに思い出せるが、思い入れはそれほどない。だがもう少し上の世代になると、それなりに入れ込んでいたようだ(テクニクスの広告が印象的だったそうで)。
私が大学の卒業を控えていたある日、クラブの追い出しコンパに招待され出たのだが、そのときの1年生に「栗田」という名前の女性がいた。「栗田です」などと自己紹介されると、私と同世代の男達は一様に「栗田ひろみ!」と口をついて出ていた(私もね)。もっとも、その人は年齢が大分下だったので、そう言われても「??」だったようだ。で、その女性が、同級生から「クリちゃん」とか「クリ」とか呼ばれていたのだ、そのとき。私はそのとき、彼女を「クリちゃん」と呼んでいた1年生の男に、そっと(栗田さんに聞こえないように)「クリちゃんはまずいんじゃないの……」と言うと、彼はしばらく沈黙し「……僕もそう思うんですけどね……」とポツリと言った。
まあ、それだけの思い出話なんだが、「栗田ひろみ」という名前はそれくらい我々の脳髄に強烈にインプットされていたということ!
で、喫茶店で、そういうたわいもない話をしてから、外に出た。私は習慣的に「暑っ!」とつぶやいていた。だが、外はさわやかな秋風が吹いていた。秋の空が心地良かった。
投稿日: 金曜日 - 9 月 09, 2005 03:01 午後