合理化という名の破壊


 


ジャスト・イン・タイム方式という方法を取り入れる企業が増えているらしい。在庫を抱えれば経費も必要だし、できることなら在庫を抱えずに仕事がうまく進むようにしたいと考えるのは、どこの企業も同じである。だからといって在庫を持たないとこれはこれで大変困ったことになる。で、必要なときだけ必要な分量を補充するようにするというのがジャスト・イン・タイム方式だ。
大阪の工場で組立をやるが、その部品を千葉で作っている。大阪で部品の余剰在庫を抱えていれば、操業上さして問題はないのだが、「合理化」の名の下、在庫を減らすことで経費を削減しようというダイナミズムが働き、ジャスト・イン・タイム方式を導入するということになる。つまり、前日できあがった部品のみを夜のうちに組立工場に搬送するという方法を採用するのだ。この方法だと、部品在庫を抱える必要もなく、輸送経費だって、もともと大阪から千葉に部品を送るのに経費はかかるわけで、多少特急料金がかかるにしてもトータルでは経費をかなり低く抑えることができる。みんなが丸く収まって、よかったよかった。ムダは敵なり。オーッ!(シュプレヒコール)……というようなわけで、普及してきているようだ、この方法は。
だが、みんなが丸く収まるかといえば、必ずしもそうではないらしい。昨日見たNHKスペシャル『トラック・列島3万キロ 時間を追う男達』で、この輸送に関わる運送業者に密着取材していたが、そもそも夕方千葉で荷積みした部品を翌朝時間どおりに大阪に搬入するというというのはかなり無理があるらしい。計算上では確かにできるようになっていても、実際の道路事情はどうなっているかわからない。渋滞もあれば、事故で通行が制約されることもある。しかも、行政から長距離トラックの速度規制(最高で時速90km)が設けられており、それに従っていたら、休みも取れなくなるというのだ。ろくに休みを取らずに長距離運転していれば、運転手が疲労困憊するのは目に見えており、事故につながる。事故が多発する→行政が制限速度を厳しくする→ますます労働条件が悪くなる→疲労度が高くなる→事故がさらに増える……これを悪循環という。
で、この場合、何が問題かというと、極端なジャスト・イン・タイム方式なのだ。企業は合理化策のつもりで導入しているんだろうが、結局のところ、負担になったり経費がかかったりする箇所、つまりやっかいな部分を社外に出すことで、自分たちの目につきにくくしているだけなのだ。企業としては合理化・節約できたつもりでいるのかも知れないが、負担をよそに押しつければ、押しつけられた側は早晩その負担で苦しみ、ひいては倒産ということになる。倒産したら他の運送業者を探すまでだ……などとうそぶいても、そうやって次々に厄介ごとをまわりに押しつけていたら、産業が立ちゆかなくなるのは必至だ。産業自体を破壊しているのだよ、あなた方は。
先ほどの番組で、あるベテラン運転手が、「満足のいく仕事をしたい」と言っていた。プライドを持っていたらやれないような(どこかで無茶をしなければならない)仕事ばかり押しつけられているのだろう。
私自身、今の仕事は10年以上続けているが、「満足のいく仕事をしたい」と思うことが多い。企業の合理化策のせいか、機械代わりをさせられていると感じるような仕事が徐々に増えてきている。そういう仕事の多くは断っているが、そのおかげで仕事が激減してきた。今みたいな状態が続けばいずれは廃業ということになるだろう。この業界は、合理化という美名の下で、中堅の職人を一人失うことになるわけだ。普通、中堅の職人といったら、これからいくらでも活用できる貴重な存在だと思うがね、一般的に言って。
「木を見て森を見ず」ということは、周りに常に存在する。自分の半径数メートル以内でうまく行っていても、トータルで見るとマイナスということは意外に多い。合理化や競争力強化という名目で、周辺の産業を破壊していく人々には警鐘を鳴らしていかなければならない。周辺を破壊していったら、最後には自身が滅ぶのだよ。そういう存在を人はガンと呼ぶのだ。ガン化していく存在はやがて消え去るしかない。
人類もある意味、現在、地球のガンとなっている。だが、総体としての人類には、相変わらず反省の色が見えない……嗚呼。

投稿日: 日曜日 - 6 月 12, 2005 09:52 午前          


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