えらいものを見た



夕方、何気なく民放のニュース番組を見ていたら、ものすごい形相のオババが、画面に向かって罵声を浴びせている光景に出くわした。こういう場面は日常あまり目にすることがないので少し面食らったが、一緒に見ていた子どもたちはもっとだったのだろう、言葉を失っていた。すぐに、あの奈良のお隣りさんのラジカセ事件だと見当がついたが、それにしても、普通であればちょっと目にしたくないような人間の憎悪や敵意をあれほどあからさまに見せられると引いてしまう。
おそらくあのオババ(以後「加害者」と呼ぶ)は、敵意がつのりにつのってあんなになってしまったのだろう。しかも、罵声を浴びせていた相手に対して、精神的にかなり優位に立っていたことが画面から伺われる。一種のイジメみたいな精神状態になっていたんだろうな。
どうしても自分のことに照らし合わせてみることになるんだが、隣人とのトラブルは、相当なストレスになる。人間のイヤな面を見せられて辟易するし、しかも自分の中のイヤな面も改めてさらけ出されるんで、精神的に参ってしまう。
学生時代からこれまで7、8回は転居しているが、アパート住まいだとどうしても隣りの音がよく聞こえるので、音のトラブルがつきまとう。私は、音で文句を言ったことも言われたこともある。もちろん音でもめることが多いと、だんだん隣人との対処方法もわかってきて、隣家の音楽やテレビが我慢できないくらいうるさいときは、丁重にお願いするようにすればそれほどトラブルにならないこともわかってくる(このとき「なんでオレがお願いしなきゃなんねえんだ」などと思わないように)。
そういえば、以前住んでいた横浜のアパートの近所で、隣室の音が原因で殺人事件が起こったこともあった。あの辺は狂気がかった若い男が結構多かった(銭湯でよく見かけた)ので、さもありなんという感じではあったが。
東京から当地に引っ越す原因になったのも音だった。隣人のオジジが怒鳴り込んできたのだ。ウチは当時新婚で、ヨメがキャピキャピ騒ぐのが好きだったので、私の方は当初から少しヒヤヒヤしていたのだ。しばらくは隣家ともうまくいっていたのだが、だんだん雰囲気が悪くなってきて(廊下でこちらが挨拶しても無視されたり)、とうとうある夜、酔っぱらって怒鳴り込んできたのだ。酔っぱらっていたところを見ると、相当な決心をして、心を奮い立たせたんだろう。もちろん、音で迷惑かけたのは悪いと思ったが、こういうやり方でしか苦情を言えない隣人にもかなり腹が立った。結局数ヶ月後に当地に引っ越すことになった。そんなわけで、当地ではなんとしても一軒家に住みたいと思った。家を探すときに驚いたのは、こちらの方だと、アパート(いわゆるマンションね)と一軒家の家賃がほとんど変わらないということだ。同じ値段なのになんで(音環境が悪くしかも狭い)アパートを選ぶんだとも思ったが、若者はマンション(実際にはアパートだが)志向が強いんだそうだ。
幸い、それ以降、音を含め、隣家とのトラブルは今に至るまでまったくない(子供がいるんで近所はうるさいと思っていたかも知れない。文句を言わないで大目に見てくれた皆さん、感謝します)が、今回の引越しでも、第一条件は近隣との関係だった。幸い両隣は優しそうな人々で今のところ安心しているが、あのニュース番組に出てきたオババの映像を見せられた日にゃあ、いつかあんな風になってしまうんじゃないかという気がして、人間不審になりそうだ。近所とはなんとかそつなくやっていきたいと思うし、やっていかなきゃいけない。どうしてもうまくいかなきゃ、野中の一軒家にでも住むしかないもんね(それも良いとは思うが)。
話は戻るが、今回の事件は相当な悪意が感じられ、どう考えても悪質だ。一般的には民事扱いになりそうな今回のようなケースで、傷害容疑で逮捕したというのは、結果的に良い判断じゃないかと思える。被害者は相当参っていたようだ。あの形相で毎日嫌がらせされたら誰でも参るだろう。よくあれで2年半も我慢していたものだと思う。警察が介入するという結果になったとしても、被害者の生活が(一時的にせよ)守られたことは(他のケースへの影響という意味でも)良かったと思いたい。加害者が釈放されてからどうなるかは少し心配ではあるが。

投稿日: 木曜日 - 4 月 14, 2005 08:03 午後          


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