覆面座談会
その6 日本の建設業界編
A=シニカルな後輩
B=シニカルな先輩
A:最近、ニュース番組を見ても、正視に耐えない人間ばっかり出てきて見る気が失せてしまうんですがね。
B:誰?
A:日本とアメリカのしたり顔の政治家連中ですよ。
B:なるぼど。
A:画面を見るだけで気分が悪くなります。あいつらが出てきたら、すぐにチャンネル変えます。胸くそが悪くなるから。
B:そうかい。
A:その点、最近はなかなかマンション問題で騒ぎになっていて面白いですね。ニュース番組もまた見るようになりました。
B:当事者は大変だろうがね。
A:まあ、そうですがね。しょせん金のある人たちみたいだから、都市部のマンション購入なんかまったく縁のない、貧乏人の私らはあまり同情しませんね。
B:俺は気の毒だと思うがね。
A:でもまあ、今回はばかげた自己責任論は出てきませんね。
B:政府があおってないからな。政府が「自己責任だ」って言ったら、また騒ぎ出すお祭り人間が出てくるんじゃないの。
A:でもまあ、今の日本の建設業界は、詐欺的ですからね。それを承知で不動産を買えば、こういうことが起こることは想像が付くんじゃないですか。特にマンションなんてひどいでしょ。本や放送でも、どれだけひどいかが紹介されてますよ。
B:この物件だけは大丈夫と思って買うんだよ、大体ね。
A:「夢を買ってる」わけですね。宝くじと同じだ。
B:でも、借金は残るからね。額も洒落にならない。それに建築申請を認可しているのは行政だし、行政の責任は大きいよ。
A:もちろん、あきらかに詐欺的ですから、悪いのは売った人々と、それを野放しにしてきた行政ですよ。それはわかっているんですが、高い買い物なのにどうして十分情報収集しなかったのってことを言いたいわけです。正直言って、今回みたいなケースはこれからも大量に出てくると思いますよ。
B:そう?
A:むしろ今回のは、構造設計だから、後から見てすぐわかるという点で、良性といっても良い。図面上ちゃんとしていても、手抜き工事やってたらなかなか気付かないしね。それにちゃんと工事やってても建築資材に問題があったら、ダメですよ。
B:建築資材って?
A:コンクリートに海砂使うと塩害が出て10年くらいで鉄筋がダメになっちゃうんです。
B:へえ。
A:一応使っちゃいけないことになってるんですけど、経費を下げるためには何でもやるような業界ですから……。
B:そんなにひどいかねえ。ちょっとうがち過ぎじゃないの?
A:10年程前に造った新幹線の高架がもう壊れはじめてるでしょ。何年か前に話題になりました。あっちこっちでコンクリート片が落下してました。
B:確かにそうだが、最近あまり聞かないじゃないか。
A:報道されないだけじゃないですか?
B:それに、あれが造られたのは十何年も前だろ。今の建築は海砂について言えば大丈夫じゃないの?
A:数年前に造られたナゴヤドームで、できあがって1年ほどで、資材が壊れて落下したこともありましたよ。
B:そう言えばそういうこともあったな。
A:阪神大震災でも、建築学者が、絶対に構造上壊れるわけがないなんてことをぬけぬけと言っていた高速道路がドーンですからね。今の日本の建築はデタラメなんですよ。
B:あれも手抜き工事だっていう話があったが、立ち消えになったな。
A:東京で直下型地震がきたら、高層ビルがどっしんどっしんなんてことも考えられますね。おーこわ。
B:それじゃあ、今マンション買うのはダメだってことか? いくら安くても?
A:日本のマンションはどれもダメですよ。たとえ構造設計で問題がなくて手抜き工事していないとしても、いずれ廃墟になります。借りるんならともかく買うのは無謀です。
B:Aは建築業界にいたことあったっけ?
A:隅っこに方にいたことはありますが。でも、本とか放送とかの知識ですよ、ほとんど。見聞きしたものもありますけど。誰でもちょっと調べれば、このくらいのことはわかります。それに、新聞の折り込み広告見てると、マンションや住宅の価格が異常に安い。絶対何かあると思った方が良いですよ。
B:俺には高いけどな。
A:そりゃ高いには高いですけど、住宅の価格として見た場合という意味です。価格破壊の行き着く先は、結局健全な産業も破壊してしまうということですよ。今の日本の建築業界は、大変不健全です。言うまでもないですけど、まじめにやっていて、優れた技術を持っている人々ももちろんいますよ。でも、そういう業者に行き当たるかどうかはわからないですから。少なくとも広告に踊らされているような消費者は、良心的な業者には出会うことはないでしょう。
B:だが、こう考えることはできないか。価格破壊のために合理化の限りを尽くして行くとこまで行った。今度はこれが正常なレベルまで戻る番だと。
A:よく意味がわかりませんが。
B:ものを作って売るときに、値段を下げようとしたら、当然必要経費を下げなければならない。究極まで値段を下げてしまうと、本来のものが提供できなくなる。たとえば焼き鳥を売っているとしよう。1本100円で売っているときは良いんだが、価格競争で1本20円で売らなければならなくなったら、鶏肉ではなく、適当に入手できる代用肉を使ってみる。たとえば、犬の肉とか。
A:それじゃあ焼き鳥じゃなくて焼き犬ですよ。
B:そうだ。それで買う方がそのことを知ったら文句言うだろ。そうすると、とりあえず鶏肉を使う範囲で妥当な価格に戻すしかなくなる。安い鶏肉を何とか仕入れて、1本90円くらいでやっていく。結局はどの店もその程度の値段で、価格が安定していくということだ。そのあと、どこかの店が80円で売り出したら、自分の店でも人件費を削って対抗するとか、合理化するとか、付加価値を付けるとか、いわば比較的健全な競争に戻る。
A:すると今のマンション販売は、その過渡的な状況だということですか……
B:まあそうだ。
A:今後はよくなるだろうと。
B:少なくとも、構造計算をないがしろにするというような大胆な手法はなくなるだろう。手抜き工事はちょっとやそっとじゃなくならないかも知れないが。
A:そう願いたいもんですな。
B:実はいろいろな業種でこういうことは起こっているんだ。アメリカの電気業界や航空業界がそれでね。ちょっと前に西海岸で停電が多発しただろ。あれも価格破壊のせいだ。
A:健全な産業を破壊してしまった好例ですね。
B:航空業界はこれからだよ。事故が多発するのは。マイクル・クライトンが小説で告発しているらしい。
A:日本のトラック輸送でも同じような問題がおこってますね。それから高速バスも。
B:破綻が出てくるまで野放しだからな。せめて、自分や自分の周辺で被害者が出ないよう注意したいものだ。
A:経済性を重視しすぎたグローバリズムの行き着く先ということですね。あー、嫌な世の中だ。
投稿日: 土曜日 - 12 月 17, 2005 05:19 午後