2004年の5本:ドキュメンタリー
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タイトル |
シリーズ名 |
制作年・国・放送局 |
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1 |
エリックとエリクソン |
BSドキュメンタリー |
04年・NHK BS1 |
2 |
土と水と炎が創る神秘の色 |
04年・テレビ東京 |
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3 |
マサヨばあちゃんの天地 |
NHK特集 |
91年・NHK |
4 |
チャベス政権 クーデターの裏側 |
BSプライムタイム |
03年・アイルランド・BS1 |
5 |
アッテンボローのSatoyama 映像詩 里山 |
?・NHK BS2 |
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番外 |
七色の光彩を放つ "耀変天目" |
04年・NHK Hi |
2004年のドキュメンタリー・ベスト5は、ほとんど(6本中5本)がNHKで放送されたものだ。私が見るドキュメンタリーの多くがNHKで放送されたもの(海外のドキュメンタリーも含む)だからしようがないといえばしようがない。それに放送されるドキュメンタリーの数もNHKが圧倒的に多い。またNHKのドキュメンタリーに優れものが多いのも事実だ(最近は質がかなり低下しているが)。NHK BSとNHK Hiのドキュメンタリーは何度も再放送されることが多いので、興味を持たれた方は是非ご覧ください。
2004年に見た65本のラインアップは こちら 。
第1位の『エリックとエリクソン』は、ハイチのストリートチルドレンの10年間を追った力作だ。
ハイチのポルトープランスで路上生活をしていた、エリックとエリクソンという2人の少年。「いつかは路上生活から抜け出して商売をしたい」とささやかな夢を語っていた。かつてNHKが作ったこのようなドキュメンタリーに、10年後のかれらの姿を肉付けしたのが、今回のこのドキュメンタリーだ。そこには、大国に収奪される第三世界の現状が映し出され、さらにその中で弱い立場に追い込まれ苦しむ人々が描き出されれる。エリックとエリクソンの現在も決して喜べるようなものではない(路上生活からは抜け出している)が、それでも人間を信じ夢を語るかれらには感動を禁じ得ない。
第2位の『土と水と炎が創る神秘の色』は、伝統技術の扱いが非常に巧みなテレビ東京が、色をテーマにして作り上げた一大叙事詩だ。日本の伝統技術の高度さや洗練にあらためて感心させられる。テレビ東京の力量と伝統技術を尊重する姿勢にも敬意を表したい。
第3位の『マサヨばあちゃんの天地』は、91年に「NHK特集」として放送されたもの。日本の伝統的な(自給自足的な)暮らし方を実践する「マサヨばあちゃん」の世界を追ったもので、現在ではほとんど絶滅した生活様式が記録されている(豆腐さえも自給している)。だが、世界の環境が悪い方向に向かっている今の世界では、このような生き方こそが理想ではないかと考えさせられるのだ。傑作ドキュメンタリーで、何度も再放送して欲しい作品だ(だが再放送はほぼ期待できないだろう)。
第4位の『チャベス政権 クーデターの裏側』は、ベネズエラの現在をクールなタッチで追う、映画の『Z』を地でいくアイルランドのドキュメンタリー。貧困層の代表として登場したチャベス政権だが、アメリカを背後に控える資本家側の揺さぶりで転覆の憂き目にあう。このドキュメンタリーは、そのクーデター騒ぎの一部始終を、チャベス政権側に密着して報告する秀作だ。緊迫感が見る方にも伝わってくる。ちなみにチャベスはその後大統領の座に返り咲くことになるが、いまだに火種は絶えない。
第5位の『アッテンボローのSatoyama 映像詩 里山』は、動物や自然のドキュメンタリーを撮り続けているデビッド・アッテンボローが日本の里山を撮影した「映像詩」で、そこで生活する人々が自然にとけ込んで生きている姿を訴えかける。魚の視点から見た人の映像など、映像としても楽しく、また言うまでもないことだが美しい。日本は、このようなものまで捨て去ってきたのだということに、あらためて失望を禁じ得ない。
番外の『七色の光彩を放つ "耀変天目"』は、世界(すべて日本)に3個しかないと言われる耀変天目茶碗を現代の技術で甦らせようとする陶芸家たちを追ったドキュメンタリー。そのうちの1人は本当に甦らせることができたのだが、そのプロセスや他の陶芸家たちの落胆ぶりなどが巧みに表現されていてなかなかの秀作であった。
優れたドキュメンタリーは、優れた映画や文芸と同じように見るものを感動させる。もう少しドキュメンタリーが芸術性という点で評価されれば、もっと人々の目に触れるようになって、頻繁に再放送されるようになるのだろうが。ドキュメンタリー映画が(日本でも)脚光を浴びるようになったのがせめてもの救いか……。