思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心ちしける(大宅世継)

批評、随筆、芸術のアーカイブ・サイト……竹林軒

その後の仁義なき貧困

エリックとエリクソン ~ハイチ ストリートチルドレンの10年(2004年4月放送)

NHK BS1 BSドキュメンタリー


 世界最貧国の1つ、ハイチの社会問題を、ストリートチルドレンを通して描くドキュメンタリー。
 10年前に取材した2人のストリートチルドレン、エリックとエリクソンのその後を追う。
 2人とも、職に就きスラムに家を構えているが、その後は対照的だ。13歳のときに「人生は捨てたものではないと思う」と言っていたエリックは、その後、17歳でバスの運転手の職に就いたが、後に暴漢に襲われ、脚が不自由になる。一方のエリクソンは、路上で自動車掃除(子供時代も自動車掃除で食いつないでいた)をやりながら、一家を養っている(彼は結婚して、子供も生まれている。無職の義兄まで養っている)。
 独立200年を迎えるハイチには、これといった産業もなく、人々は貧しい。十数年前、アメリカが軍事介入して、軍事政権を打倒するも、その後も混沌とした状態が続き、やがてアメリカと国連軍は、収拾を付けることなく撤退する。そんな中、民主的な手続きで選ばれたドゥワルテ大統領は、社会構造に少しずつメスを入れていく。
 それでも、社会の貧困は改善されない。
 資本家本位の社会構造を守ろうとする富裕層は、大統領辞任を求める反政府運動を展開する。貧困層を金でやとって投石をやらせたりもしている。
 一方で5年の任期をまっとうするよう求める政府支持デモが繰り広げられる。こちらは貧困層がメインだ。政情はなかなか安定しない。
 このような中で、エリックとエリクソンも生きている。脚が不自由で働けないエリックは、知り合いの仕事を手伝ったり、食べ物をもらったりして生きている。そんな中でも、犬と食べ物を分かち合い、寝るところがなくて困っている人を家に泊めたりしている。「持っているものを皆で分かち合うのが、自分にとっての民主主義だ」と彼は言う。
 自動車掃除で生計を立てていたエリクソンだが、やがて、政府による取り締まりに合い、自動車掃除業を続けられなくなる。社会的弱者は、いろいろなところで、締め付けを受けるのだ。
 彼らは、こんな中でも、絶望せず、前向きに行きようとする。
 かつてかれらを虐待した父親との確執も描かれている(エリックはノミで脇腹を刺されたこともあるらしい)。
 一方、ハイチの政情は、2004年になって、大きく展開した。貧困層に支持されていた大統領がクーデターで失脚し、各地で軍事勢力が力を伸ばしている。これに介入して、新たな混乱を招くアメリカ。ハイチの未来は見えない。
 ストリートチルドレン、スラム、政情不安、貧富の格差、少年の凶悪化、児童虐待……さまざまな社会問題があぶり出される。その中で、小さな幸せを見つけて前向きに生きる人々を追う秀作ドキュメンタリー。

(第42回ギャラクシー賞上半期奨励賞受賞作品)
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