「竹林軒出張所」選集:音楽
最近気が付いたんだが、AmazonでクラシックやジャズのCDがものすごい値段で売られている。 以前、輸入CDが異様に安く売られていることを書いたが、そのときに85枚組のベートーヴェン全集『Complete Beethoven Edition』が安値で売られていると紹介した。で、案の定買っちゃったんだな、これが。 前にベートーヴェン全集のところで書いたが、ショパン全集が手元にある。いよいよこれを全部聴いてみたという話である。 |
ソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』というCDがある。このCDは、ジャズの名盤を紹介した本では必ず紹介されるようなジャズの定番中の定番なのであるが、…… |
「大正ロマンの歌」らしく「恋はやさし野辺の花よ」や「ホフマンの舟歌」などの浅草オペラで有名な曲も取り上げられている。第一線のオペラ歌手が浅草オペラの歌を取り上げるというのもはなはだ興味深い…… |
CDを4枚買うと30%引きなどというセールがあって、今回4枚も買ってしまったんだがね。むろん、衝動買いなどではなく、ずっと前から「欲しいもの」リストに入っていたものをこの機会に買ったということだ。 |
「竹林軒出張所」選集
輸入CDはウラシマ状態
最近気が付いたんだが、AmazonでクラシックやジャズのCDがものすごい値段で売られている。以前から廉価版CDというのがあったのはもちろん知っているが、今の状況はちょっと「はんぱねぇ」んである。
たとえばEight Classic Albumsというジャズのシリーズがあるが、4枚組で1100円前後とくる。しかも4枚組ではありながら、その実8枚分のコンテンツが入っているという。どういうことかというと、たとえばジョン・コルトレーンの『Eight Classic Albums』には、『The Last Trane』、『Informal Jazz』、『A Blowin Session』、『Black Pearls』、『Settin The Pace』、『Kenny Burrel And John Coltrane』、『Traneing In』、『All Mornin Long』の8枚分のオリジナル・アルバムが収録されている……4枚のCDに(つまり2枚分のアルバムが1枚のCDに収録)。ということは、計算してみると、元のアルバム1枚当たり110~140円程度ということになる。レンタルより安い!
このシリーズだが、コルトレーン以外にも、マイルス・デイヴィス(マイルスは10枚組!)、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツなどの有名どころもあるし、今の日本ではあまり多く出回っていないようなアーティストのものもある。収録されているアルバムは、特に有名どころのアーティストについては、割に有名なアルバムが多く、マイルスやロリンズについては、個人的には持っているものばかりなので今さら必要ないが、ちょっとマイナーな線になると興味を引かれるものも多い。そういうわけで、試しにキャノンボール・アダレイのものを買ってみた。このCDもご多分に漏れず8枚分のアルバムが入っているが、そのうち持っているものが1枚あったので新旧で聞き比べてみたが、音質的に特にどうこういうような問題はなかった。思った以上に良いもので、少なくともiTunesやiPodに入れて聞く分にはまったく遜色ないのではないかと思う。
 一方クラシックになると、はんぱなさも桁外れになる。たとえば、CD85枚組のベートーヴェン全集が約6000円(輸入盤であるためか毎日値段は変動している)、170枚組のモーツァルト全集が約1万円、157枚組のバッハ全集が約1万3千円である。こうなると、これまでの常識が通じないというか、もうなんかわけがわからない世界である。ベートーヴェン全集の場合でCD1枚当たり70円程度。レンタルするよりはるかに安いときている。この3つの全集は、オランダにある(という)Brilliant Classicsというレーベルが出しているもので、他のクラシック・レーベルからライセンスを受けて販売する会社らしい。そのためか、ラインアップを見る限り演奏自体は割と有名なアーティスト、アルバムのものが多いのである。こういう商品が起爆材になっているのか、名のある老舗レーベルも、同様の企画を出している。RCAからはまもなくトスカニーニ全集(84枚組、7500円前後)が出るというし、カザルスやクライバーも大手レーベルから低価格でボックス・セットが出ている。
こういうのは大抵が輸入盤だが、こうやって通販で普通に買えるようになると、今までのCDの価格体系というものが劇的に変わるんじゃないかと思う。特に、クラシック、ジャズ、ロックなどの古典再版系のものは、今後、二束三文の値段で売られるようになるかも知れない。古典を安く入手できるのは歓迎ではあるが、果たしてこれでレコード会社がやっていけるのか、共倒れになるような価格設定なんじゃないかと老婆心で心配してしまう。
だがベートーヴェン全集が6000円で手に入るというのも何とも魅力的な話である。少し調べてみると、ベートーヴェンの交響曲全集なんかも千円台から出ている。僕もかつてはせっせといろいろなアーティストのものを買い集めたが、どれも1万円近くしたような記憶がある。ルービンシュタインのショパン曲集もたしか2~3万円程度で買ったような記憶があるが、今見たら11枚組で2360円だそうな(Chopin Collection)。10分の1の値段ということか……。こういうのは何だか少し複雑な気分になる。
かつて国内盤CDがやたら高値で売られていたときに、クラシックの輸入盤CDを渋谷の専門店で探し回っていたことがあるが、そのときはせいぜい国内盤の2~3割引程度の値段だった。それから20年以上経ったが、国内盤は、多少は安くなったとは言え旧態依然の売り方を続けていて、一方で海外盤は、完全に価格体系が変わったかのような値段になっている。しばらく輸入版に頓着していなかった間に時代は大きく動いていたのだろうか。僕はウラシマ状態である。国内メーカーもさすがに今までのような殿さま商売を続けるわけにいかなないだろう。今の時代、渋谷をうろつき回らなくてもネットで簡単に手に入れられるわけで、同じ市場で勝負しなければならないわけだから。少なくともクラシックやジャズなどの古典再版系については今後劇的に変動があるかも知れない。「瞑目して待て」という境地の昨今である。
2012年2月、記
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「竹林軒出張所」選集
ベートーヴェンの使い回し
以前、輸入CDが異様に安く売られていることを書いたが(上記『輸入CDはウラシマ状態』)、そのときに85枚組のベートーヴェン全集『Complete Beethoven Edition』が安値で売られていると紹介した。で、案の定買っちゃったんだな、これが。買ったのは2月で、そのときは5880円だったが、今Amazonを見てみると1万円を超えている。ある程度適正な価格に戻った(これでも安いが)と考えることもできるが、僕が買ったのは最安値に近く、買い時としてはベストだったということになる。実に良いタイミングで買ったもので、自分をほめてあげたいと思います!
さて、この全集に収録されているCD85枚分のベートーヴェンの作品、せっせとiTunesに入れては聴いてきたが、最近やっとほぼすべての曲を聴き終わった。と言ってもすでにiTunesに入っているベートーヴェンの楽曲も意外にたくさんあり、そういう曲はとりたてて新しく入れていない。そもそもすでに入れているのは世間でも評判の高い名盤の類である。わざわざ並の線の録音を新しく入れることもあるまい。とは言え、全集に収録されている曲目はすべて入ったことになる。そして全部聴いた。全集に入った作品を全部鑑賞するなんぞ、文学ではなかなかできないが、音楽だと時間が一定に限られるんで意外に簡単である。だからCD全集などの企画は非常にありがたいんである。ましてや手の届く価格となると多少質が悪くても大目に見ようという気になる。実は1曲だけ(Disk71の最後の曲『奉献歌 Op.121b』)うちのCDドライブで読み込めないものがあったが、その曲についてはよそで探すことで全曲収録は達成されたのであった。その点を差し引いても、この全集についてはおおむね質は申し分ないと言える。
こういう全集ということになると、普段聴く機会のない曲というのが結構あって、存在すら知らないものも多かった。この全集では、有名曲は基本的に有名なアーティストがかつてリリースした作品をライセンスを受けて収録しているんだが、演奏の機会さえほとんどないものについては、このレーベル(Brilliant Classics)が、おそらくこの企画のために収録したと思われる録音が使われている。だからアメリカ合衆国のローカル楽団の演奏も入っている。だが他に存在しないのであれば、たとえ演奏が拙くてもしようがないというものである。ちなみに拙いと感じることはなかったのでそれほど不満はない。それどころかこういうマイナーな楽曲までほじくり返して収録しているということに頭が下がる。
ベートーヴェンの楽曲は、生前出版されたものには作品番号(Op.)が付いているが、出版されていない作品も多い。おそらくベートーヴェンとしては習作のつもりで書いたのか、あるいは単に売れなかった可能性もあるが、そういったものは、後の研究者によってWoO(Werk ohne Opuszahl(作品番号なしの作品)の略語)番号が付けられている。さらにそこからも漏れた作品についてはHess番号が付いている。だから重要性としてはOp.→WoO→Hessということになるんじゃないかと思う。ベートーヴェンは楽曲の管理を結構厳密にしたそうで、そうするとOp.とWoOとの間には大きな溝があると考えることもできる。ベートーヴェンからしてみると、Op.以外の作品は実は発表したくなかったのかも知れないが、すでに全作公開されてしまった。天才の宿命というやつである。もちろん実際に聴いてみるとWoOの作品にも魅力的なものは多い。有名な「エリーゼのために」もWoO.59だ。
ただ発表することを前提にしていなかったせいか、中には有名な曲のスケッチみたいな形で残っているものもある。たとえば『12のコントルダンス WoO.14』という楽曲があり、若い頃に作曲した気軽な舞曲だが、この第7曲が、交響曲第3番(英雄)の第4楽章の第2主題そのものであったりする。ちなみにこの主題はバレエ音楽『プロメテウスの創造物 Op.43』の第16曲(終曲)でも変奏用の主題として使われているんで、ベートーヴェン自身気に入っていた主題なのかも知れない。他にも、カノン『タ、タ、タ…親愛なるメルツェルよ、ごきげんよう WoO.162』のメロディが交響曲第8番の第2楽章の第1主題、カノン『神は堅きやぐら WoO.188』のメロディが『荘厳ミサ曲 Op.123』の「クレド」の主題、歌曲『愛されない者のため息と愛の答え WoO.118』に『合唱幻想曲 Op.80』の主題が見え隠れしたりと、全集ならではの発見がある。WoO番号が付いた初期の作品でも、その後のベートーヴェンの大作に使われているような技法が見え隠れしたりすることもあった。初期の曲は、ハイドンやモーツアルトを彷彿させるようないかにも古典派という曲が多いが、おおむねどの曲も見所があるというか、聴いていて面白いと思える。唯一僕にとって退屈だったのが民謡編曲の各曲(『25のスコットランド民謡 Op.108』、『25のアイルランド民謡 WoO.152』など計10シリーズ)で、どういういきさつで書いたのか知らないが、あまり面白味を感じなかった。
だがこういったものに接することができるのもひとえに全集という企画のおかげであり、そういう意味でもこの全集、個人的には購入しても十分元が取れる素晴らしい企画であったと言える。なお、『Complete Beethoven Edition』というタイトルが付いているが、多少漏れている楽曲があるような気もしている(未確認)。だがほぼ網羅しているのは明らかで、たとえ漏れがあってもマイナス要因にはならないと思う。満足度の高い商品だった。
追記:実はショパン全集『Chopin Complete Edition』も3月頃安かったんで買っているのだった(当時3800円ほど)。こちらはこれから挑戦しようと思っている。
2012年6月、記
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「竹林軒出張所」選集
チョピンとは俺のことかとショパン言い
前にベートーヴェン全集のところ(上記『ベートーヴェンの使い回し』)で書いたが、ショパン全集が手元にある。いよいよこれを全部聴いてみたという話である。
別のところ(上記『輸入CDはウラシマ状態』)で書いたが、20年以上前にルービンシュタインのショパン全集(10枚組、全集と名うっているが室内楽や歌曲が入っておらず全集とは言えない)を買っているので、ショパンのCDについては手持ちのものが結構ある。ルービンシュタインをはじめさまざまな演奏家のものをすでにiTunesに登録しているため、今回はそれ以外の楽曲を取り込んで聴いてみた。
今回のショパン全集は、ドイツの名門音楽レーベル、グラモフォンによるもの(『Chopin Complete Edition』)であるため、演奏家もポリーニ、アルヘリッチなど錚々たる顔ぶれで、その点ではまったく不満はない。しかも英国の名門音楽レーベル、デッカから出ているアシュケナージの名盤も数枚収録されていて、この辺、グラモフォンとデッカとの間で何らかの交渉があったんだろうが、非常に贅沢である。おそらくグラモフォンの意向で、グラモフォンに足りない楽曲をデッカからレンタルして補ったんだろうと思う。なお前に書いたように、僕は3800円で売られていたときに輸入盤を買った。今は5000円くらいだが、17枚組であることを考えると、この値段でも十分お買い得であると言える。この企画は、ショパン生誕200年記念として2010年に発売されたアルバムで、日本版も出ている……ようだ(中身が同じかどうかは未確認)。
内容はと言うと、ルービンシュタインのコレクションを持っていることもあり、楽曲の目新しさはあまりなかったが、それでも声楽曲や室内楽曲は珍しい。ショパンと言ったらピアノ曲しか知らなかったもので、それ以外のものは非常に新鮮である。といってもこういった曲にもピアノ・パートは入っているわけで、ピアノ抜きの曲は実は存在しないのだ、おそらく。さすがピアノの詩人! 演奏はどれも良く、今のところ物足りなさは感じていない。
今回全集に触れてわかったのは、一般的に「第●番」という番号付きで呼ばれている曲(ワルツ、マズルカ、ポロネーズなど)は、元々その多くが2、3曲のセットで発表されているということである(前奏曲、練習曲は例外)。たとえばポロネーズ第1番と第2番は『2つのポロネーズ』として発表されている。この「第●番」というのはやはり後の人が付けたんだろうが、すべてが出版順というわけでもなく、これ自体にあまり意味がないんではないかということに気が付いた。ショパン自身は出版した作品に作品番号を付けているが、この作品番号にしても、ショパン死後、関係者が勝手に付けたものもある(作品66以降)らしく、少々ややこしい。ちなみにショパン自身は、(作品66以降を含む)未発表の作をすべて破棄してほしいと遺言したらしい。実際にはショパンの意向は尊重されなかったが、しかし作品番号の付いていない作品にも秀作があることを考えれば、結果的には良かったのかとも思う。
それからもう一つわかったのはマズルカが異常に多いということで、全部で60曲近くある。ショパン自身、マズルカに思い入れがあったということなんだろうか。全集を聴いたといっても、実際のところはそういうことをつらつら考える程度なんだが、それでもやはり「全集は良い」と思う。ある作曲家の生涯の作品すべてに当たることができるわけで、贅沢きわまりない体験と言える。まあしかし、全集を聴いて、この程度の感想しか出てこないというのも少しみっともない気もする。
2012年7月、記
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「竹林軒出張所」選集
ここ一番のCD
ソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』というCDがある。このCDは、ジャズの名盤を紹介した本では必ず紹介されるようなジャズの定番中の定番なのであるが、グルーヴ感っていうんでしょうかね、どんどん前に進むような迫力がすばらしい。余談だが、この「グルーヴ感」という言葉、何となく気恥ずかしい気持ちがする。とくにウに濁点を付けて表記するとその感が強くなる。「ズージャはダンモ(「ジャズはモダン」の意)」と言うような言い方に通じるような気恥ずかしさである。「疾走感」とでも言えば良いだろうか……。とにかく後ろから押されるような推進力が心地良い。特に最初の「Old Devil Moon」から「Softly as in a Morning Sunrise」につながるあたりは最高である。
ヴィレッジ・ヴァンガードというのは、ニューヨークにあるライブ・ハウスで、このCDはそこでの実況録音である。CDの写真は、ヴィレッジ・ヴァンガードのオーナーの肖像だそうである。喫茶ギャラリー・グロスのオーナーから聞いた話だが、裏は取れていない。
疾走感があるせいか、仕事が大分進んでもう少しで終わりという状況、つまりラスト・スパートになったときにこれを聞くと、仕事がはかどってフィニッシュまでつなげることができるというわけだ。大変ありがたいCDである。
ソニー・ロリンズは、聴き始めてからかれこれ20年になるが、こういう良いものもある一方で、あまり感じるところがないようなアルバムももちろんある。ジャズの他のアルバムでもそうだが、良いものは、こういう疾走感があったり迫力があったりして、何の先入観もなく聴いているにもかかわらず、お……と思う瞬間がある。一般的に評価の高いアルバムには得てしてこういうものが多い。
仕事のラスト・スパートでは、この『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』に続いて、『ソニー・ロリンズ vol.2』、『ソニー・ロリンズ vol.1』と聴いていく。アナタエンソウスル、ワタシシゴトハカドルである(なんのこっちゃ)。何度も言うが、大変ありがたいアーティストである。
2009年9月、記
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「竹林軒出張所」選集
天然の美
先日、『天然の美』というCDを図書館で借りた。塩田美奈子というオペラ歌手が出したCDだが、「天然の美」といえば、デモンストレーターというか……ま、いわゆるチンドン屋さんだが、よく演奏するあの定番曲で、何となく古いイメージがある。クラシカルという意味で古いのではなく、もっと下賤というか通俗的というか、そういった古さで、はっきり言ってしまえば「古臭い」感じである。このCDには「大正ロマンの歌」というサブタイトルが付いていて、要は、大正時代のはやり唄を集めたCDである。
「大正ロマンの歌」らしく「恋はやさし野辺の花よ」や「ホフマンの舟歌」などの浅草オペラで有名な曲も取り上げられている。第一線のオペラ歌手が浅草オペラの歌を取り上げるというのもはなはだ興味深い。他にも「バイノバイノバイ」や「道頓堀行進曲」のような古臭い歌もある。当初、いくらオペラ歌手といっても、こういうものに手を出すのはいかがなものかと思っていたのだが、聴いてみるとそれなりに味わいがあって良い。エノケンのような下品な歌い方ではなく、どちらかというと、「お母さんといっしょ」の「歌のおねえさん」のような、明るくさわやかな(なおかつ少しあざとい)歌唱である。「ゴンドラの唄」、「宵待草」、「カチューシャの唄」などは、他の日本人声楽家にもたびたび取り上げる歌で、こちらもそつなくこなしている。
この塩田美奈子は、美空ひばりの歌を集めたアルバムも出しており(『川の流れのように〜美空ひばりをうたう』)、「お祭りマンボ」や「愛燦燦」などがきれいな歌唱で聴ける。美空ひばりは、僕にとって、何度トライしてもなかなか良さがわからないタイプだった。だが、この美空ひばり歌集で歌われる、美空ひばりと似ても似つかないさわやかな歌声は結構好きである。同じ歌でも、こうまで違うのかと思うほどで、まったく別の歌のようにも感じられる。ただし、美空ひばりに特別な愛着を持っている人であれば逆の反応を示すかも知れない。
この歌手、つまり塩田美奈子は、日本語で歌うということを重視しているようで、有名なオペラの歌曲を日本語で歌ったアルバムも出している(『オペラ・アリア集(日本語訳)』)。また、クラシックの名曲に日本語の詞を付けたアルバムもある(『愛を歌う』)。試みが成功しているかどうかはそれぞれで評価が異なるだろうが、なかなか意欲的で好感が持てる。だからと言って、このお方、今どきのビジュアル系クラシックとか奇をてらった企画とかの部類に入るような歌い手ではなく、経歴はなかなかのもので、まったく侮ることはできない。「羊の皮を被った狼」である(ちょっと違うか)。以前紹介した鈴木慶江にしてもそうだが、しっかりした実力を持ちながら、新しい音楽ジャンルに果敢にチャレンジするその精神は「佳きかな」である。
2009年9月、記
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「竹林軒出張所」選集
CDを買うのにさんざん躊躇していたが
いよいよ買っちゃったという話
CDを4枚買うと30%引きなどというセールがあって、今回4枚も買ってしまったんだがね。むろん、衝動買いなどではなく、ずっと前から「欲しいもの」リストに入っていたものをこの機会に買ったということだ。だからそれ自体はまあ良いんだが、でも4枚ということになると「どうしても欲しいもの」ばかりを集められないわけで、中には「欲しいものかどうかの境界」リストに入っているようなものも入れなければならなくなる。
で、今回がそういう状況で、その境界に入っていたCDが『人間みな兄弟』なわけさ。『人間みな兄弟』については、2006年2月にブログで書いたことがあり、ということはかれこれ3年半「欲しいもの」リストに入っていたことになる。厳密に言えば、「欲しいものかどうかの境界」リストなんだがね。前にも書いたように、「人間みな兄弟」のオリジナルバージョンは確かにとても良い。買っても損はないくらいなんだが、オリジナルバージョンはすでにうちにあるんだね、これが。だから今回は、別バージョンが必要かどうかという判断になる。これはneowingやAmazonで試聴ができるんでこれまで何度か聴いているんだが、確かに面白いことは面白い。しかし、買うほどの価値があるんだろうか……というのはいつも頭の中にある。だから3年半に渡って躊躇していたわけだ。
だが、今回この境界CDを買っちゃったんだ。「買っちゃった」というからには、満足度が低いということなんだが、やはり、買うだけの価値があったんだろうかと買った今でも思っているのだ。面白いには面白いんだ、何遍も言うけど。でも何回も聴かないよな。なんせ約20曲、アレンジが違うだけで同じメロディが続くんだから。5曲くらい聴いたらもういいやって気分になる。「"人間みな兄弟"の主題による変奏曲」だと思えば聴けなくもないが、まあでも聴かないだろう。この手のCDは、何人かで共同購入してまわし聴きするのに限るんだ。そういう意味でもレンタルにぴったしなんだが、どこの店にも置いていない。3年半近く手を付けなかったのは、レンタル店に入荷するのを期待していたということもあるのだ。ま、ともかく買っちゃったんだから、元を取るため、変奏曲だと思って何回も聴くことにする……やっぱり聴かないかな……
2009年10月、記
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